再会

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 時は流れ、小説発売から三年後。  私たちは桜平坂高校を卒業してそれぞれ別の大学へ進学した。  私は私立の文系大学、いわゆる普通の四年生大学だ。  県内だけど自宅から通うには距離があるので大学近くのアパートを借りて一人暮らしに踏みきった。  そしてくーちゃん。  くーちゃんはなんと東京の美大へ進学した。  高校一年のあの雨の日。  くーちゃんが私に自分の本当の気持ちを話してくれたあの日。  彼の将来への気持ちは固まった。  くーちゃんは絵の勉強を必死に始め、高校二年の夏休み頃、東京の美大のオープンキャンパスへ生き、そして高校三年になった春に両親に自分の進みたい道について話した。  くーちゃんの必死の説得を受けて、両親は「お前の進みたい方向へ進め。後悔だけは残すな」と背中を押してくれたという。  美大の合格通知を貰ったくーちゃんは今までで一番嬉しそうな笑顔を見せた。  私たちは大学入学後もたまに連絡を取り合っている。  実習が多いくーちゃんとは滅多に顔を会わせることはないがメールでは元気な文面を見せてくれるから寂しくはない。  ただ、一人暮らしは未だに慣れなかった。  実家のように声をかけてくれる母も父もいない。自分が声を出さないかぎり静まり返る部屋に慣れなくてラジオを購入した。初めて賞金で買い物をした。  ここまでがそれまでの話。  私の物語が再び大きく動き出したのは、一本の電話からだった。 『もしもし天野さん? ご無沙汰してます祝井です。【片翼で空は翔べるか】今現在でも凄い反響よ! 重版も続々とかかってるわ。主に中学生や高校生などの若い世代からのウケが良くてね、ライトノベルはままあることだけど文芸界では珍しいことなのよ。ああ、そうだ! ここからが本題。驚かないでね。なんと【片翼で空は翔べるか】の映像作品化……実写映画化のオファーが届いたの!』  たぶん今自分は相当まぬけな顔をしているだろう。  テンション高めの祝井さんとの通話が切れ受話器を置く。しばらく電話の前で固まった。 「……おぉぅ?」  変な鳴き声が出た。  映画化が決まった。 「映画化って、あの映画館に行って見る大きいスクリーンで見るあれだよね?」  信じられない。  私の作品が劇場で公開される。  今までよりもっと多くの人の目に触れられる。  しばらく固まっていたら再び電話のベルが鳴った。携帯を見ると祝井さんの名前。  もしかしてやっぱり間違いだったとか!? もしくは『ドッキリ大成功ー!』というパターンも!? 『ごめんごめん。大事なこと言い忘れてた。それで今度キャストを決めるオーディションがあるの。原作者である天野さんにもいてほしくて。ある程度ふるいにかけてあるから、後は天野さんがコレと思った役者を選ぶだけなんだけど』  待ち合わせは来月十一日の土曜日、午前十時にうちのビルの三階、前に授賞式をやったところね。出版社の場所は覚えてる?』私がはいと返事をすると『では来月に!』と電話が切れた。祝井さんはりきってたなぁ。 「ていうか、キャストって芸能人だよね。やだ、緊張する」  今からでもスキンケア頑張らないと。  くーちゃんに映画化のことを知らせようと電話すると、彼はとても興奮していた。 「凄いじゃんか! 真琴サイン貰ってきてよ。色紙渡すから! 十枚で足りる!?」 「嫌」  丁重に断った。だから私も緊張するんだってば。
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