再会

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 二度目の東京。  新幹線の窓に映る景色は田園風景からビルの聳える森へ変わっていく。  駅にあるコンビニで購入したサンドイッチを頬張りながら自分の書いた小説の文庫本を空いた片手で持つ。  これが映画化か。  私の書いた小説には三人の主要人物が登場する。  主人公の美雲(みくも)。  主人公の親友の間宮(まみや)。そして幼馴染の御船(みふね)。  他にも主人公をいじめる主犯とそのグループの取り巻きや教師などの脇役も登場する。  学校ものとあり登場人物はそれなりに多いので審査はなかなか骨の折れる作業となるだろう、などと本日行われる予定をぼんやり考えながら咀嚼したサンドイッチを飲み込んだ。  三階の授賞式会場のホールは面接会場に変わっていた。 「やあ、はじめまして」  私が会場に足を踏み入れると長テーブルに肘をついて座っていた男性が声をかけてきた。  長テーブルに座る男性の左隣には編集長(授賞式でちらっと見たきり)とさらにその隣に担当の祝井さんが座っている。 「今回映画制作の進行を率いる監督の葛西(かさい)です。よろしくお願いします」 「天野真琴です……あ、本名じゃなくてペンネームか。星野真実です。すみません。よろしくお願いします」 「いいよいいよどっちでも。ざっくりプロフィールは聞いてるから。高校生で授賞なんて凄いねー」 「あ、ありがとうございます」  よかった。話しやすそうな人だ。  監督って怖そうなイメージがあったから少し安心した。  監督の右隣に空けられた椅子に腰かけもう一度今日のオーディションの説明を聞く。  【片翼で空は翔べるか】のキャストオーディションにはコンセプトがある。  そのコンセプトは“新人発掘”  このオーディションは駆け出しの新人をメインに面接することなっている。  この映画出演をきっかけに新人の旋風を巻き起こそうという試みだ。  【片翼で空は翔べるか】は若者の苦悩や陰鬱な人間関係すなわち青春の裏に隠れた影を書いた作品だ。  初々しい若手俳優たちにとって学園ものは演じるのにちょうどいい舞台なのだ。  ……ほの暗さが強すぎると思うが。  つまり、今回の映画化の話は向こうにとっても美味しい話なのだ。  というより次世代俳優の火付け役にこの映画が抜擢されたというのが本当の理由だ。  波にのってる新人役者たちを売り出すには苦悩する学生たちが舞台の青春ドラマのこの作品がぴったり。だから私の作品がこの企画のために選ばれた。 「お互いウィンウィンの関係だね」  監督はそう言って笑っていたが今回の映画化は向こうの方に利が傾いている。  でも。 (どんな形でもいい。作品が世に広がるなら)  こちらだって利用されるだけでは気がすまない。
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