片翼で空は翔べるか

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 こうして【片翼で空は翔べるか】の撮影は無事終了した。  そして私が姉の死に囚われる物語も幕を閉じたのだ。  街路樹の銀杏並木が歩道に黄色の絨毯を敷く頃、私はくーちゃんと一緒に地元の霊園に来ていた。  実琴の死を認めた私は今日やっと姉の墓参りに来ることができた。  墓石を磨き、花を添える。  くーちゃんが線香を立てた。  黙祷が終わるとくーちゃんは私に微笑んだ。 「実琴きっと安心してるよ。天国で喜んでると思う」 「うん、そうだね」  そうだといいな。 「映画の公開はまだなの?」 「うん。まだ編集とかいろいろ時間がかかるみたい。公開は来年の春予定だって」 「春かー、長いね。映画制作って大変なんだ」 「役者は演じ終われば後は制作班に任せちゃえるから楽だよ。ちょっと悪い気もするけど」 「いや、でも大変だったでしょ。まさか原作者が主演を演じてからの屋上バンジーなんて前人未到だよ」 「あはは。そうだね」 「ほんとよく頑張ったよ」  ちなみに主演キャストの名前だが、原作者と知られないために別の芸名を使った。 『原作者が役者もやるってキャッチコピーをつけたら良い宣伝になる!!』  監督は何度も私に説得を試みたが丁重にお断りさせてもらった。  あくまで代理での参加だからその売り文句は控えさせてほしかった。  ずっと惜しい表情をする監督に苦笑を浮かべるだけでその場をやり過ごした。  安城も言ってたけどこの人はもう少し評判や売上以外のものに目を向けた方がいい。  せっかく良い映画が創れるんだから。  でも安城の言葉が効いたのか、監督はちょっぴり反省してるみたいで、ポスターは原作者である私の意見を尊重すると言っていた。  ならばこっちも大いに原作者の権限を奮わせてもらおう。 「それでね、今映画のポスターをどういうデザインにするかって話がきてるんだけど、くーちゃんポスター描いてみない?」 「えっ!? 僕が? 真琴の映画のポスターを?」 「くーちゃんの絵なら劇場でも目を惹くこと間違いなし。なにより私が見てみたい!」 「いやでも、僕なんかの絵でいいの?」  もごもご言葉を詰まらせる彼の額にデコピンする。 「こら。昔の私みたいなこと言わない。くーちゃんだからお願いしてるんだよ」 「真琴……うんわかった! とびっきりの最高の作品を描いてみせる。君たち双子姉妹(・・・・)への(はなむけ)だ!」  彼と共に空を見上げる。  雲一つない空は吸い込まれそうに青く深い色で広がっていて、まるで私たちの行く未来を映し出しているようだった。 「ねぇくーちゃん。私ね、二作目書こうと思うんだ」 「それって真琴、小説家になるって決心したの?」 「決心ってほど壮大なものじゃないけど。なんとなく書くの好きだなって。不思議。あの頃は辛くて苦しくて堪らなかったのに、小説を書いている時だけは心が落ち着いた」  原稿に自分の気持ちを落としていくことが心地好かった。 「でも今度は自分のためだけじゃない。もっといろんな人が楽しんでくれるような作品を書きたいなって。そうだな、ワクワクドキドキのエンターテイメント作品!」 「いいじゃん。真琴なら絶対できるよ。その時は僕が一番の読者になるね」  顔を見合わせて笑う。 「その前に」  私は彼の目の前に二枚の紙切れを見せつけた。 「前売り券先行ゲーット」 「えっ。そういうのって関係者はタダで見れるんじゃないの?」 「ちゃんとお客さんとして映画館に足を運びたいの。公開したら一緒に観に行こう。客観的に自分の作品を観てみたい」 「いいね。大女優天野真琴さんの演技をとくと拝見しよう」 「そう私女優なの。小説家兼女優のハイブリット。俳優さんたちとも仲良くなったし。くーちゃんモデルの御船役の俳優さんくーちゃんよりイケメンだよ」 「それは落ち込むなぁ」 「うそ。くーちゃんが一番格好良いよ」 「え、真琴それって」 「映画の後は感想言い合いっこしよう。おいしいご飯楽しみにしてるね」 「……三ツ星レストランの予約状況見てみるよ」  真剣にスマホを操作しだす彼を見て笑った。
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