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「え!? くーちゃん違う中学にいっちゃうの?」
衝撃の事実を知ったのは小学六年生の卒業式。
知るにはあまりにも遅い時期だった。
私は出来ることといえばびっくりすることが精一杯で。次の瞬間涙が溢れた。
「そんなの嫌だよ。いっしょの中学通おうよ」
「そう言い出すと思って真琴には内緒にしてたんだよ」
泣きじゃくる私を前にくーちゃんはやれやれと嘆息する。
「実琴は知ってたの?」
「知ってたっていうか……」
うーん、と実琴は考えるように腕を組んで言う。
「くーちゃんすごい勉強してたし医者志望だから、こんな地元の普通の中学には行かないだろうなって思ってたかな」
「実琴は勘が鋭いからね」
「そんなぁ」
察しの良い実琴はある程度覚悟していたかもしれないけれど、今知ったばかりの私にとっては寝耳に水だ。
絶対三人で同じ中学に通うと思っていたのに。
「どこの中学校?」
「葵坂附属中」
「めちゃくちゃ遠いじゃん!」
葵坂附属中は隣の県にある進学校だ。
大学部まであるエスカレーター式の大きな学校で、多くの卒業生は隣にある葵坂大学病院で医者となり活躍している。
くーちゃんの父親も医者であることから息子である空ちゃんも医者になることを望まれていた。
「県外だからね。実家を離れて学生寮で過ごすことになるよ」
「じゃあ本格的に会えなくなるね」
「いやだ~……」
よしよし、と私を中心に左右から慰めの手が伸びて私の頭を撫でる。
「中学が別々でも三人の絆は永遠だよ」
「やだくーちゃんくさーい」
実琴がくーちゃんに茶々をいれるけれど、その声は涙ぐんでいて、実琴も寂しいんだなってわかった。
「ねぇ、タイムカプセル埋めようよ」
私が提案すると、二人も顔を見合わせて頷いた。
「いいね。埋めよう」
「何年後に掘る?」
「それより何を埋めるかでしょ」
「とりあえず、家に帰ってから各自決めて、場所は桜塚公園の一番大きな桜の樹の下に埋めよう」
そう言って私と実琴はくーちゃんと別れ、タイムカプセルに入れるものを探しに家へ帰った。
兄弟姉妹は同じ部屋と相場は決まっているが、私と実琴も例に漏れず同じ部屋である。
部屋の右スペースが実琴、左スペースが私と左右でだいたい区切られているがベッドだけは実琴が「二段ベッドの上で寝たい」という要望から右端に設置されている。
だから寝る時だけ私は所謂実琴ゾーンに入ることになる。
同じ室内で私たちは互いに背を向けタイムカプセルに入れるものを考える。
「うーん、何にしよう」
「食べ物とかはやめなよ」
「わかってるよ。あ、これとかいいかも」
私はおもちゃ箱の中からブレスレットを出した。
いつか私と実琴、くーちゃんの三人で地域のお祭りに行った時、露店商でキラキラと輝いていたそれに一目惚れして買った物だ。
「いいじゃん。思い出の品って感じで」
「実琴は? 何にしたの」
「んー、内緒」
「えーっ。私教えたのに」
「教えてなんて言ってないじゃん」
「むう」
実琴の言葉にむくれてしまう。
そんな言い方ないじゃん。
私はついカッとなって実琴に不満を言ってしまう。
「実琴はずるいよ」
「え?」
「くーちゃんのこともそうじゃん。違う中学かもって私に教えてくれだってよかったのに」
「言ったら真琴は止めるじゃん」
「そりゃ止めるよ。くーちゃんと離れたくないもん」
「それじゃくーちゃんの夢を邪魔することになるじゃん。それは真琴も本望じゃないでしょ」
「うぅ」
私はうつむき涙を溢してしまう。
だって、ずっと三人でいたのに、それが当たり前だったのに。
四月になったらくーちゃんがいないのが当たり前になっちゃって、彼もきっと私たちがいないことが日常になって慣れてしまう。
「そんなの寂しいじゃん」
実琴は私の頭を撫でる。
その手つきは、先程までの意地悪さとは真逆に優しいものだった。
「ごめんね。でも、大丈夫。少し離ればなれになっただけで私たちの絆は途切れるものじゃないでしょ」
「本当に、みんなバラバラにならない?」
「当たり前よ。お姉ちゃんが保証する!」
実琴はどん、と拳を胸に叩く。
その根拠のない姉の自信に何故か私は安心感を覚えて「うん」と頷いてしまうのだ。
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