偽装結婚の終わり

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 もうすぐ、夫と結婚して一年が経つ。 「ただいま」  玄関から心地よい声がした。私は食事を用意する手を止めて夫を迎える。 「おかえりなさい、早かったですね」 「会議が思ったよりも早く終わったよ」  夫は背広をハンガーにかけてからネクタイを緩めると、笑顔を見せた。 「良い匂いだ、今日は……」 「揚げ出し豆腐です。あと活きの良いメバルがありましたので煮付けてありますよ」  一緒に生活するうちに、少しずつ夫の好きな食べ物がわかってきた。朝食は軽めのシリアル、夕食には夫の好きなものを食卓に並べる―― 「ビールが飲みたくなるね。一緒に飲むかな? あぁ、君はあまり飲まないんだった」 「少しだけいただいます」  夫は食器棚方小さなグラスを二つ取り出す。私は冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。栓抜きで栓を開ける。琥珀色の液体はコポコポと音を立ててグラスの中に景気の良い泡を作った。 「来週からは少し早く戻れるから」 「一緒に食事ができますね」  平日も遅く、最近は休日もほとんど家にはいない。結婚した当初は天気の良い日にあてもなく散歩したり、雨の日は映画を観たり、食卓に着けばたわいない話で笑ったりしていたのに。最近の彼は、一緒に住んでいるのにどこか遠く、手に届かないものを見ているようだった。  私と十五歳も年齢が離れている夫、冬馬(とうま)さんは、一年前に出会ってすぐに結婚した。互いに見ず知らず、ただ、互いの利のために――
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