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「せめてイメージだけでも。その方の性格とか、容姿とかを教えていただけると助かります。お客様の持っておられるイメージに似合うものを選びますから」
「そうですね――」
彼は思い出すかのように空を見上げてから、視線を私に戻す。
「綺麗な黒髪で肌は健康的に焼けています。力仕事のおかげか姿勢がとても綺麗で……あ、笑うと可憐ですね」
ふむふむ。頭の中に女性像を描く――力仕事ね、超親近感がわきます。花屋を可憐なお仕事だと思ってはいけない。かなりの重労働だ。
「気遣いのできる人で、仕事熱心です。なによりお客に親切ですね」
素敵な人ではないか――いやでもお客って、それ、水商売のお姉さんでは……再び下世話なことを考えてから、私は思いつく花を取り出す。
「では、凛と咲く芍薬や一輪で華やかなガーベラ、可愛らしいカンパニュラを散らしても可愛らしいと思います。色味は――」
「あなたの好きな色にしていただけますか? 僕は彼女の好きな色がわからないので……」
「いえ、それはいけません。それでは、お客様はその方にどんな色が似合うと思いですか? その色味でまとめましょう」
そうですね――と再び空を見る。そして私をじっと見つめてから――
「では、オレンジがいいと思います。明るい色が良く似合う人ですので――」
「なるほど、では暖色系でまとめましょう」
私が花を取り、彼に見せては「そうですね……」と真剣に吟味して、頷いては「いいですね」と答える。時間をかけて出来あがった花束に紺色のリボンを結ぶと、彼は嬉しそうに微笑んだ。笑顔の素敵な人だ――
頭をかすめる既視感。なんだろう、以前もこんな人に会ったような――
思い出せない。気のせいかもしれない。ともかく、こんなふうに一生懸命選んだ花束をもらえる人は幸せだろうと思った。選ばれた花も誇らしそうだ。
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