偽装結婚の終わり

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 週末、祖父の墓から帰る途中に冬馬さんがいた。どうやら私を待ってくれていたらしい。横浜とは反対方向に職場があるはずの冬馬さんが現れたことに、私は心底驚いた。 「冬馬さん、どうしてこんな時間に――今日もお仕事では?」 「咲さん、これから散歩に行かない?」 「散歩……ですか?」  私の問いには答えずに、そんな提案をしてくる。二人で出掛けるのは久しぶりだ。少し緊張する。そういえば、初めて一緒に出掛けたのは結婚式の打ち合わせだった。あの日もとても緊張して……これから夫婦になろうかというのに、あまりにぎこちない様子の私たちに、ウエディングプランナーさんも戸惑っていなんじゃないかなと思う。 「江ノ島でもいいかな?」 「今からですか?」  電車で一時間近くかかる。散歩という距離ではない。だけど、冬馬さんが行きたいというのならついていこう。  私たちが夫婦でいられる時間はもう数日しか残っていない。そのあとは、赤の他人に戻るのだから――今はまだ、少しでも長く一緒にいたい。
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