Fiction 0. Sample

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パーキングからまず大学のゲートまで五分。そこから、広ーいキャンバス内を歩いて約十分。 三十度を超える真夏日の真昼間。特段急用があるわけでもないのに、灼熱の太陽にジリジリと肌を焼かれながら、日陰のないキャンパスを十五分も歩いて行こうとする自分がよくわからない。 だけど、木曜日の午後に青柳さんのところに向かう。 それは、大学を卒業してからの私の日課になっていた。その理由や意味を、わざわざ頭で考えるまでもないほどに。 大学のゲートを抜けるときに、もはや顔馴染み同然となっている管理のおじさんが、管理室の小さな窓から顔を覗かせて声をかけてくれた。 「美織(みおり)ちゃん、今週もお疲れさま」 「こんにちは。毎日暑いですねー」 「おー、今週は特になー」 手にとったタオルで額を拭うおじさんは、拭いたそばからまたそこにジワリと汗を滲ませていた。 ほんとに暑そうだなー、とぼんやり見ていると、おじさんが苦笑いする。 「ここ、先週からクーラーの効きが悪いんだよ」
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