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「百ちゃん、私、キスした」
目の前の彼女は痛いぐらいの視線を私にぶつけてくる。
「セックスもした。百ちゃんより大人よ」
可愛らしい小さな口から飛び出した直截的な言葉に怯み、それから呆れた。
「百ちゃん付き合って」
何度も投げかけられてきた台詞に思わずふう、とため息がでる。
この子は昔からこうだった。いつもすましていて「大人だね」なんて言われているくせに、ほんとうに欲しいものを目の前にするとなりふり構わないのだ。
そんな彼女の姿をみるたび私は、急がなくていいのに、と思う。急ごうと急ぐまいと、私たちが手のひらにのせられるものの量は決まっている。そのことに気づいていない彼女は、もう、どうしようもなく子どもだ。
「百ちゃん以外の人とはだめなの。いろんな人を傷つけてしまうから」
熱い視線が地面に落ちる。何度言われても私のこたえは変わらなかった。
「よく分からないけど、七とは一生付き合えない。それで誰かを傷つけてしまうのは、七が子どもだからよ」
彼女は下唇を噛んだ。桃色の、薄い、私のそれとそっくりな唇。今私の前にいるのは、はやく先へ進みたいと思うあまり同じ場所をぐるぐると回っている、そんな女の子だった。
「傷つけるとか傷つけないとか、そんなこと考えないで済む恋をしなさい。それが大人よ」
大した恋なんてしたこともないのに、大人でもないのに、分かったような口をきいた。そしてこの子の恋は叶うのだろうかと、他人事のように思っていた。
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