心の家庭教師

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 きっかけは、家庭教師をしていた教え子の母からの依頼だった。  将太(しょうた)の様子がおかしいと俺に連絡があった。  数ヶ月前、志望する中学校に受かった将太だが、最近ユーチューバーを目指すと言い出して、友達と配信を始めたという。  そこそこ人気らしいが、配信にかまけて中間テストの結果が今一つだったらしい。 「それで落ち込んでいるんですか?」 「もちろんそれもあると思います。ただ、成績以上に友達と喧嘩したことを引きずっていて。一緒に配信をやってた友達は10位以内だったようで。それで、隠れて勉強してたんじゃないかと言い争いになったとか」  なるほど。実際に本人に聞いてみないとわからないが、要領の良い友達だったのかもしれない。  確かに将太は決して要領のいい方ではなかった。  お礼はお支払いしますと言われたが、それ以前に確認しなければいけないことがあった。それは、一体何をもって解決とするかだった。  配信をやめさせたいのか、成績を上げるだけでいいのか。はたまた友人トラブルを解決するのか。  そこに明確な基準はないように思えた。母親が言うには、健全な学校生活が送れれば良いということだが、どこまでを指しているのか判断し難い。 「ユーチューバーを始めたことは健全のうちに入らないのですか?」  と聞いてみると、それ自体が悪いとははっきり言わなかった。ただ、親としては学業がおろそかになるようならやめさせたいのが本音だろう。  親の顔を立てるより、将太の意を組むように俺は進言した。 「私としては、まだ中学生ですし、好きにすればいいと思うんですよね。将太君が通われている中学校から、例えばプロゲーマーなども出ていますし、可能性は無限にあると思います」  母親はプロゲーマーのことまでは知らなかったらしい。有名な選手なのだが、この際関係ない。 「成績が全てとはもちろん言いません。でも、せっかく入った中学ですし、それに将太自身が一番成績のことを気にしていて」  母親はそんな風に答えた。  とりあえず将太と直接話してみることにした。母親の望む結果にならなければ、料金はいただかないという話をしたら、無料というわけにはいかないと言い出す。  俺自身はどちらでも良かった。所詮暇つぶしみたいなものだ。  元々お金に困らない生活をしている。ただ、同居人に養われっぱなしじゃ自分が納得いかないだけなのだ。  といっても大学時代に稼いだお金は使われずにほとんど手元に残っている。家賃代わりに同居人に渡そうとしたら、貯金しとけと言われた。 「あの子が納得すれば、それで構いません」 「わかりました」  俺は快く引き受けた。
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