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さっき壁をぶち破るほどの勢いで勇者を殴ったせいで、物音を聞きつけた姫とオークがやって来てしまったのだ。
「まあ!」
二人の姿を見て姫は頬を赤らめた。
「やだ、私ったらお二人の邪魔をしてしまったのね」
「行きましょうぜ姫さん。ここは若い者どうし二人きりにしてあげましょう」
二人がなんか勘違いしているので、魔王はとりあえずオークをぶん殴っておいた。
「誤解なんだ、俺達は別にそういうことしようとしていたわけじゃないからな!」
魔王は怒るが、姫もオークも全然聞いてくれない。
「勇者、この二人をなんとかしてくれよ」
「なんとかって?」
「キミが殴れば操られた連中を正気に戻せるだろ」
勇者はなるほどという感じの顔になるが、すぐに悩み出した。
「オークはともかく姫を殴るのはなあ」
「あー、確かにそれは気が引けるだろうけど、だからと言って彼女をこのままにしておくわけにはいかないんだよ」
勇者はいかにもしょうがないなーという感じの顔になる。
「おい姫、ちょっといいか」
勇者は姫に手招きした。
のこのこと近寄ってきた姫に、勇者はデコピンを食らわせた。
「痛い!」
姫は全力で痛がってその場に蹲ってしまう。
これでも手加減したつもりだったらしく、勇者はちょっと不服そうだ。
それからしばらくの間痛みに悶えていた姫は、大きく目を見開いた。
「はッ、私は今までなにを!」
「正気に戻った?」
魔王が顔を覗き込むと、姫はおろおろと目をそらしてしまった。
「いやですわ、私ったらあんなろくでなしのせいで魔王×勇者派になってしまうだなんて」
「そのカップリングをいつまでも引きずってんじゃないよ。とにかく元に戻ってくれたならよかった。キミに求愛されたときはどうしようかと思ったもの」
すると姫はなぜかほんの少し恨みがましそうな目で、けれど頬を赤くしてこちらを睨んで来た。
この視線がなにを訴えているのかわからない。
なんとなくそれを知ることに一種の気恥ずかしさを感じてしまうのはなぜだろうか。
そうこうしている間に勇者はオークを正気に戻していた。
「はッ、あっしは一体なにを!」
と、正気に戻ったオークを魔王はもう一発ぶん殴っておいた。
「ボス、なぜもう一度パンチを?」
「なぜじゃないよあんな奴に操られるなんて! それでも俺の部下か! 恥を知れ!」
「す、すいやせんでした!」
ぷんすかする魔王にオークは必死に土下座をした。
「それで魔王様、これからどうしますの?」
「あの馬鹿を徹底的にしばき倒しに行くに決まってるだろ。とにかくまずは、勇者を着替えさせないと」
「いいえ、勇者様にはそのままの服装でいてもらいましょう」
姫の発言に魔王は仰天した。
だが彼女は別に、勇者の花嫁姿が性癖だったわけではない。
「あの不届き者を懲らしめる為ですわ。憎いあん畜生の目を欺いて油断させましょう!」
丁寧な口調の中に丁寧じゃないワードを微妙に含ませつつ、姫は言い切った。
正直言って勇者がずっとこの服装なのはどうかと思うが、確かに彼らが正気に戻ったことは隠しておいた方がいいだろう。
とにかくあの元右腕に目に物見せてやる為に、魔王達は行動を開始することにした。
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