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純粋な瞳で見つめられて魔王は居心地が悪くなる。
かつて自分をさらった相手を心配して、わざわざ足を運んでくるなんて。やはり彼女は本物の馬鹿ではないか。
「とりあえず、勇者には迎えを出してやるか。あの野郎どこほっつき歩いてんだよもう」
ぶつくさ言っていると、オークがなにかを思い出したかのように顔を蒼白させた。
「ボス! もしかしてさっきの話、あれかも知れませんぜ!」
「あれってなんだ?」
「ボスのご先祖が残したっていう、伝説の兵器の話があったでしょう!」
オークの言葉に、魔王の顔もみるみる青ざめていく。
「まあ、なにか心当たりがおありなの?」
「キミには関係ない」
「いや関係ありまくりですから。一体なんなのかちゃんと教えてくださいませ」
興味津々な姫に、致し方なく魔王は語り出した。
「もう何代も前の話だよ。俺の先祖も魔王として色々とやってきてね」
確か自分の曽祖父か、その前の代のことだ。
当時の魔王は部下に恐ろしい兵器を開発させていた。使えば人間を意のままに操り、更に身体能力を強化させて魔族と同等の力を与えることができたのだ。
人間たちの強化軍団を作り、敵の元へ送り込んで同胞同士で潰し合わせる予定だった。
だがその兵器はあまりにも恐ろしく、封印されてしまったらしい。
「ガキの頃に親父から聞かされたけど、ただの与太話だと思っていたよ。本当にそんな兵器があるのならいくらでも使えばいい。封印したとか伝わっていたのは、最初からそんな物は存在していないからだと思っていた」
ちなみに当時の魔王は人間との戦いに敗れてしまい、しばらくは魔族の領土に引っ込んでいた。
それ以降人間たちに手を出した魔王は自分の代までいなかったし、その自分も人間と仲良くする道を選んだのに。
「ですがその兵器は実在し、使われた方たちは魔王様の忠実な部下になってしまうのですね。可哀想に、その時代の魔王様にはよほど人望がなかったから、そんな兵器に頼ろうとして」
「いちいち人の先祖ディスるんじゃないよ! ともかく、もしも事件を起こしている奴がそれを使っているのだとしたら」
魔王は苛々してしまう。
先祖の残した遺物のせいでこんなことになるだなんて。
「くそが! 封印を解いた馬鹿はどこのどいつだ。これで人間との友好関係が崩れたらどうする気だよ!」
「ええ、そうですわね。私もせっかく魔王様とお友達になれたのに」
「だ、だ、誰がキミなんかと友達だ!」
と、そこへ伝令のカラスがやって来て外からやかましく窓を叩いてきた。
カラスの足には伝書鳩みたいに手紙が括り付けてある。なにかあったときは部下がこうやって連絡を送って来るのだ。
「えーと、どれどれ」
オークは手紙の内容に目をひん剥いた。
「ぼぼぼ、ボス! てえへんです! 勇者が、勇者が!」
「なんだ一体?」
「どうやらさっき言ってた奴に、勇者も連れて行かれちまったようです」
予想外の知らせに魔王はあんぐりとした。
「それは大変ですわ!」
あんぐりして返事もできない自分の代わりに姫が叫ぶのを聞いて、魔王もハッと我に返る。
「ふざけやがって、こともあろうに俺の勇者に手を出すなんて!」
「いや勇者様はあなたの物ではなく私の婚約者ですから」
「うるさいそんなのどうだっていい。この俺を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる!」
この事件は部下に調べさせてやろうかと思ったが、勇者が巻き込まれたとあってはそうもいかない。
そんな不届き者は自らの手で直々にしばき倒してやらねば気が済まなかった。
魔王はいつもみたいにマントをバサッとさせて気合いを入れると、人間たちの元へ乗り込む準備をはじめるのだった。
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