87人が本棚に入れています
本棚に追加
※
カフェには時計がなかったから、時間がどれくらい経ったかを知ったのは、そのカフェのあるビルの外へ出た時だった。
外はもう真っ暗で、繁華街を歩く人達は昼の顔から夜の顔へと変わっていた。
これから飲みに出かけるのか、和気あいあいと騒ぎながら歩いてくる集団が前から歩いてくる。
通路いっぱいに広がったその集団に、どう先に進むか悩んでいると、スルリと優人が私の手を握ってくれて、集団を上手くすり抜けられるように手を引いて歩いてくれた。
「あ…、ありがとう」
「ううん。なんかぶつかりそうで危なっかしかったから」
優人はそう言うと、その後もそのまま私の手を握ったままだった。
なんだか恥ずかしくなり、それを隠したくて、私は何でもいいから優人に話しかける。
「今日はありがとう。素敵なカフェを教えてくれて」
「ううん、僕の方こそ、付き合ってくれてありがとう。それに、なんだか偉そうなこと言っちゃったよね。ごめん」
「そんなことない。優人が真剣に向き合ってくれたのは分かったから、嬉しかった」
「そっか。それなら良かった」
優人がぎゅっと掴んだ手に力を入れてくる。私も握り返していた。
最初のコメントを投稿しよう!