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プロローグ
病室の窓に目を向ければ、茂った木々の葉っぱがサラサラと揺れるのが見えた。眩しい日差しを浴び、黄緑色に透ける。
その葉はそのうち、暑さで空に溶けてしまいそう。
また夏が来るんだ……。
胸の奥がきゅっと苦しくなった。
私の腕に繋がれた管に点滴の滴がぽたりぽたりと落ちていく。その滴が生命を繋げてくれるはずだと心から願う。
私は掌を大きく広げ、自分の身体をそっと撫でた。
窓脇の白いカーテンがふわりと舞い、それと同時に病室のドアの開く音がした。
「文乃」
名前を呼ばれ、振り返る。
「優人。来てくれたんだね」
心配そうな顔をして病室に入ってきた彼に笑顔を見せる。そんな余裕はまだあるらしかった。
「文乃、調子はどう?」
「うーん。ちょっと痛むくらいかな……」
「そっか……」
小さく零れた彼の声。不安な様子が伝わってくる。
2人は互いの気持ちを目だけで伝え合って、どちらからともなく微笑み合った。
「ああ、そうだ!文乃が待ち望んでいたものが仕上がったよ。コレ、さっき受け取ったんだ」
「本当!?嬉しい!!」
目の前に差し出された真新しい封筒。それにそっと手を伸ばす。
封筒の中から出てきたのは、触り心地の良い上質紙に巻かれたB6判サイズの単行本。
私はその本を手に取って表紙をじっと眺めてから、ぎゅっと胸に抱き寄せた。そして目を閉じ、心の中で強く唱える。
───この本は私があなたを心から愛した証。私の人生を変えてくれた記録。そして、私はこの本にあなたの運命を賭ける。
互いに好き合えば、2人はずっと一緒にいられるものだと思っていた。
人を愛することで愛する人を失ってしまう運命がこの世にあるなんて思いもしなかった。
そして、そのきっかけが一冊の本であることだって……。
私がそんな運命を変えてしまう本に出会ったのは、大学1年の夏だった。
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