205人が本棚に入れています
本棚に追加
社長室にはすでに明かりがついていた。我が社の社長もまた毎朝9時から仕事をする日本人だ。ガラスドアを押し開けるとデスクが3つ並んでいる。そこは社長秘書のオフィスで一番手前は数日前まで私のデスクだった。
私は並んだデスクの前を通過し、その奥のガラスドアをノックした。応答が聞こえたと同時にドアを押し開けると、部屋の主は大きなデスクの前に座り、活力のある黒い目でおはようと言った。室内には彼の姿しかなかった。
「おはようございます。早過ぎましたか?出直したほうがよろしければそうします」
「いいよいいよ、そこに座って。あいつ私より早く家を出たはずなんだけどなあ、どこで油を売ってるんだか」
日本人の社長は窓側の応接テーブルを指して言った。彼は私と同じ歳の息子がいるとは思えないほど若々しく声にも張りがある。短い黒髪にはやや白髪が混じっているが、少なくとも私の両親より10歳は歳下に見える。物腰は柔らかく、身なりや立ち居振る舞いは洗練されていて、こんな人が父親だったらいいのにと私は思う。
「アン、たしか君はウィスコンシン州の出身だったよね?」
社長に問われ、私は首肯した。
最初のコメントを投稿しよう!