1.同じ温度の握手

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「はい、ウィスコンシン州ミルウォーキー市の近郊で生まれました。私の実家があるのは市街地から離れた、森や湖に囲まれた集落です」 私の故郷はアメリカ中西部の北国だ。カナダとの国境に近く、冬は雪に閉ざされている。 「そうだった、前にも聞いたよね、ごめん。ミュンヘン、サッポロ、ミルウォーキーだもんね。じゃあ、この程度の雪は大したことないんでしょう?」 窓の外の白銀の世界を見下ろす私に社長は謎の呪文を交えて気さくに言った。 「大したことないとは言いませんが、これくらいは普通です」 私が笑いながら答えた時、ノックと同時にドアが開いて頭が天井に届きそうなほど巨大な男が入って来た。社長は冗談めかして彼を睨んだ。 「遅刻だよ」 「遅刻じゃないでしょう」 男は不機嫌そうに反論しながら手に持ったグレーのコートをめくって腕時計を見た。 「8時59分59秒。ワオ、時間ぴったり」 「何がワオなんだよ」 日本人の父子が英語でやりとりしているのは私への配慮だろう。社長は呆れ顔を作って私を見た。 「ごめんね、これがうちの息子。こんな奴だけどよろしく。副社長なんて肩書きがついちゃってるけど後輩だと思ってくれていいから」
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