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紹介されると社長の息子もとい副社長は初めて私を見た。アジア系の顔はだいたい同じに見えるが彼と社長は顔のパーツが特にそっくりで、髪や目の色も同じだった。日本人にしてははっきりとした目鼻立ちをしていて、私と同じ25歳のはずだが大学生のように見えた。
「秘書のアン・タイラーさんだよね?はじめまして、よろしくね」
彼はそう言って柔和な笑顔をつくった。
「はい、アンです」
私が右手を差し出すと、彼は大きな手でがっちりと私の手を握った。握手の習慣のない国の人々は遠慮がちに相手の手を握るものなので私はやや面食らった。
おまけに彼の背はアメリカ人男性の平均身長を優に超えていて、私との身長差は1フィート(30センチ)くらいあるように感じた。ヒールを履いていても顎を上げないと目が合わない。そして何より、社内で噂されているような危険人物には見えなかった。
そう、社内には彼に関する悪い噂が飛び交っているのだ。噂を聞いて勝手に思い描いていたイメージと実物の彼はあまりにかけ離れていて、私はついじろじろと副社長を見つめてしまった。彼は私の胸の内などつゆ知らず、父親によく似た朗らかな微笑みを浮かべている。
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