2.魔女のような女

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2.魔女のような女

社長の息子がニューヨークに来るという話は年明けから社内に広まっていた。既婚女性社員と不倫してトーキョーに居られなくなったとか、在米の恋人を妊娠させてしまい慌ててこちらへ移住してくるとか、日本政界のドンの愛人に手を出して命を狙われているとか、とにかく女性関係のトラブルを抱えている不良息子だという噂だった。 彼のアシスタントをするよう私に打診があったのは、寒波と副社長がやってくる2週間前のことだ。 「アン、社長と人事部長に呼ばれた」 上司である秘書課長は内線電話をかけてくると言いづらそうにそう告げた。私は社長室の隣に、秘書課長は総務課にデスクを持っているので口を聞くのは数日ぶりだ。同僚とのランチから戻ったばかりだった私は一瞬だけ身構えた。 「私、何かやらかしましたっけ?」 もしや解雇の通達かと思い記憶を探ったが心当たりはない。 「そういう話じゃない。むしろいい話だ。余計な心配しなくていいから、とにかく5分後にA会議室へ来てくれ」
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