K.どこまでもついていく影

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「よしよし、アン、泣かないで。ジムが浮気者の最低野郎だってことが結婚前に分かってむしろダイアナは幸運だったんだから」 自分の言葉がブーメランのように胸に突き刺さったが、俺はアンの頭を撫でつつ、自分の方へ抱き寄せた。アンは素直に俺の胸に顔を埋めた。 「アンが駆けつけてあげればダイアナはきっと立ち直るよ。もし空席がなかったら俺の席を譲ってあげる。だから大丈夫だよ、アン」 俺がそう言って宥めると、歯を食いしばり、声を殺して泣いていたアンははっとして顔を上げて涙をふいた。 「それはダメです。あなたはサムライとチハルのところに一刻も早く帰って下さい。私は大丈夫です。すみませんでした」 わずか60秒足らずで泣き止むと、アンは俺の腕から離れていつも通りのクールな美人秘書の顔になった。 「もしかしたらエマと友達になれるかもと思った私が馬鹿でした。ニューヨークに帰ったらエマとジムを逆さまに吊るしてハドソン川に叩き落としてや……」 言いかけてアンはくしゃみをした。彼女は薄手のワンピースの上に長袖のカーディガンを羽織っていたが空港内は空調がよく効いていて肌寒かった。 「お大事に。昨夜の水泳のせいだよね。本当にごめん」
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