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「うん。嬉しいよ、ありがとう。あ、チハルの写真も無事だったよ。バックアップもばっちり」
「それは良かったですね。それじゃ、あなたのその幸運で私の席を確保しに行きましょう」
意気込んでアンがスーツケースのハンドルを握り直す。その時、俺は彼女の唇の端に白いものがついていることに気がついた。
「待って、アン、ここ何かついてる。歯磨き粉?」
俺は自分の唇の端を指で触った。隙のない彼女らしからぬミスに俺はつい微笑んでしまった。ジョンからの電話を受けて慌ててホテルを飛び出してきたのだろう。
「え?!」
アンは恥ずかしそうに顔をしかめ、バッグからハンカチを出してそれをぬぐう。乾燥して固まった歯磨き粉はそれだけでは落ちなかった。
「まだついてる。この方が早いかな」
俺は背中を丸めてアンの顔に自分の顔を近づけ、彼女の唇をぺろりと舐めた。甘いミントの味がした。
「何するんですか」
アンは愕然とした表情で何歩か後退り、耳まで真っ赤になった。それはあまりにも意外な反応で、俺はつい笑ってしまった。
「俺のこと押し倒したくせに、今さらこれくらいでそんなに照れる?」
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