K.どこまでもついていく影

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アンは心の底から面倒くさそうにため息をつき、父親に近づいて彼の手から飛行機のぬいぐるみを引ったくって脇に抱える。 「父さん、私たち今ものすごく急いでるの。明日電話するから今日は見逃して」 そう言ってアンは踵を返し、俺の手をつかんでチェックインカウンターへ向かう。それは競歩の世界チャンピオンをも抜き去るような速さで、俺は小走りで何とか彼女についていく。 「こら、アン!何が見逃してだ!紹介できない男ってケイのことだったのか!何で黙ってた!どういうつもりだ!」 アンの父親は我に帰って激昂し、フレッドを伴い慌てて追いかけてくる。 「うるさいなあ、誰と何しようが私の自由でしょ!」 「ケイもケイだ!うちのアンは宇宙人みたいな娘だけどな、親に言えないような不誠実な付き合いをしてるなら絶対に許さないからな!どうなんだ?!」 宇宙人みたいな娘、という表現は何だかしっくりきた。強く美しく仕事のできる宇宙人は顔色も歩調も変えず、右手でスーツケース、左手で俺を引きずりつつ舌打ちした。 「ねえ、アン、搭乗便を遅らせようよ。お父さんにちゃんと説明した方がいいと思うよ」
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