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アナタの思う「日向みのり」は、気が利いて、アナタの言うようにしっかり者。それに料理もできて、女子らしい可愛いことも言っちゃったりして。あと容姿だって多少意識してるし、仕事もできるだけ手を抜かずに頑張ってる……。「友達に自慢できる彼女」。私がそうありたくて、努力してきたんだけど。
「……」
修はそんな私が好きなんだろうな、と思うと、この努力をこの先ずっと続けていくのかと思うと、その窮屈さを想像しただけで頭が痛くなってくる。本当の私はウジウジ悩むし、酔っぱらって風呂も入らず寝るし、洗いざらしの髪で街を歩くことだってできてしまう。
修が好きなのは、「日向みのり」で、きっと私ではない。それで、私の存在に気づかないまま、「日向みのり」にプロポーズをしてしまった……。
(……寂しいなぁ)
見つけてほしいのに。気づいてほしいのに。置いていかれたままの私を思うと、寂しい。
「……」
穏やかな海。波が一定のリズムで、ざぶんと豊かな音を奏でる。この海も、空も、風も、私を拒んではいない。お互いにあるがまま、ここにあるだけ。
修の前では、こうはいかない。
(……でも)
ふと思う。
(そもそも、見せようともしてないじゃん)
たぶん、嫌われるのが怖いから。本当の自分を晒して、嫌われるのが怖くて。だから、好かれそうな女性を演じてきた。
気づいてもらえない寂しさか、嫌われるかもしれないリスクか……。どちらかを選ばないと、きっと先には進めない。
(……そんなさ)
どちらを選ぶか、なんて。
(私らしくもない)
たぶん、初めから決まっていた。
「……」
そして、再び考える。
私に振り回されてしまった修は、自身の言ったことを後悔しているだろうか。「関係が壊れそうになってしまったから」ではなく「こんな女に言わなきゃ良かった」という意味で。
プロポーズ後のぎくしゃくした雰囲気を思い返すと、今の修がそうやって後悔していても、何ら不思議ではない。
「……」
バッグの中からスマホを取り出す。
「……」
電源を入れるのが躊躇われる。修からの「さよなら」なんていうメッセージか何かが、入っているような気がして。
「……」
それでも、もうこの旅は終わりにしなければならないから。
「……え」
電源を入れて、思わず声が漏れた。
――一泊二日だったよね。待ってるから、帰る時連絡して――
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