三大香木―金木犀― カミサマはそこにいた

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 こじんまりした改札の向こうに洋館のようなエントランスが見えてきたその時、聞き慣れた声が私を呼んだ。 「みのり」  修はほっとしたような、困ったような顔をして、小さくこちらに手を振っていた。 「……あの」  目の前まで駆け寄って、口を開く。 「おかえり」  修は私に「ごめんなさい」を言わせなかった。きっと、わざと。 「……うん、ただいま」 「行こう」  そう言って、修は私の背中を軽く押した。 「ねぇ、修」 「ん?」  構内の人混みにかき消されないように、私は声を張った。 「あとで、聴いてほしい話があるの」 「うん……今じゃなくて?」 「うん。落ち着いたとこで話したい」  当然のことだけど、それを聞いた修はいぶかしげな顔をした。そして、「そっか」と、一言だけ。それに対して私も「うん」と、一言だけ返した。 (大丈夫だよ)  口の中で呟いたのは、修に対してか、それとも。 (大丈夫)  信じてるから。  だから、ただ聴いてほしい。  この旅で見たもの、思ったこと、感じたこと。綺麗な川、穏やかな海、不思議な爺さんと金木犀。それに修、アナタのことと……「名前のない私」の話。
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