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「羽菜(はな)!羽菜!」
「お母さん、大丈夫ですから落ち着いてください!」
中央総合病院の救急搬送口前。救急車から降りてきたストレッチャーに意識混濁のまま横たわっている羽菜。看護師たちは、取り乱していた母親をストレッチャーから遠ざけ、落ち着くように促していた。
「リビングで急に倒れたんです。何の前触れもなかったのに、息が苦しそうで…。」
地面に座り込み涙を流す母親を看護師は二人で抱え上げて、建物内のベンチに座らせた。母親は、涙を拭うこともせずに羽菜が運ばれていった救急治療室の扉を見つめていた。
数時間後。
「…う…うーん…」
ぼんやりと目に写るのは見覚えのない真っ白な天井。そして慣れていない匂い。羽菜は、自分が置かれた状況が理解出来ぬまま、ふと顔を横に向けた。母親が、パイプ椅子に腰掛けてこっくりこっくりと居眠りをしていた。
「お母さ…」
起き上がろうとすると、手足に複数の管や配線が繋がれていることに気が付き、ここは病院だということを初めて理解した。
「お母さん。お母さん!」
羽菜は、声を絞り出した。母親はパッと目を覚まし、こちらを向いている羽菜の姿を見ると、慌てた様子でパイプ椅子から転げ落ちた。
「ちょ、お母さん大丈夫?」
「羽菜!うわぁぁぁぁあ。」
母親は寝たままの羽菜を泣きながら抱き締めた。そして、羽菜の耳元で良かった良かったと囁いた。
「本当にもう目を覚まさないかと思ったわよ。」
「お母さん、私…。」
「いいのよいいの…あなたは大丈夫だから。」
母親はしばらく羽菜を抱き締めた。羽菜は自分の状況が理解出来ていなかったが、母親が相当心配してくれていたことだけは理解し、自然と涙が溢れた。
しばらくすると、母親は父親に連絡をしてくると個室の病室を出ていった。羽菜は、寝たまま母親を見送ると再び天井を眺めた。自分の身体が気になり、無意識に右手を上に掲げてみる。
「…良かった、感覚はある…。」
母親が何かを隠しているように感じていた羽菜は、さっきまで母親が眠っていたパイプ椅子に視線を向けた。すると、椅子の真下に一枚の紙が落ちていることに気がついた。羽菜は気になり、身体をゆっくり起こすと、自分に繋がられた管等に気をつけながらゆっくりベッドから下り、紙を拾った。
それは、医師が母親に渡した羽菜の診断結果だった。羽菜は一通り目を通し、その内容にショックを受けながらも、紙を元の場所に戻し、母親が戻る前に再びベッドに横になった。
恐怖心が芽生え、身体が震えているのが分かった。
「…私、生きたい…。」
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