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大学に行かなくなってからどれくらいが経つだろう。もうひと月近くは経つか。変わりゆく日々に、わざわざ日にちを確かめる必要もなく、今日が何月何日かなんてことも分からぬまま、慧はベッドに座り、見たいわけでもないテレビを付け、ぼーっと見つめていた。
慧はさっき奏から受け取ったクチャクチャのプリントに目を通し、座ったままテーブル目掛けて投げ飛ばした。プリントはテーブルに着地することなく、そのまま床にヒラヒラと落ち、慧は舌打ちをして、また視線をテレビに向けた。
何というタイミングの悪さだろうか。昼のワイドショーでは、大学新一年生の夏休みの過ごし方という特集コーナーが始まった。
「…そうか、もうすぐ夏休みになるのか。」
テレビに映る自分と同じ新一年生は皆キラキラした表情をしているように見えた。
こいつらは、自分と何が違うんだ?いや、自分がこいつらと違うのか…。こんな筈じゃなかったのにな。
慧はリモコンでテレビを消すと、リモコンを壁に投げつけ、ベッドに寝そべり、スマホを手にした。相変わらず、誰からも連絡がなく、送られてくるのは企業の広告メッセージばかり。慧は一瞬、奏にお礼のメッセージでも送るかと考えたが、既読スルーが怖くなって、それも止めた。
気が付くと、いつもスマホで『死』について検索している自分がいた。人は死ぬとどうなるのか、一番楽な死に方は?、誰にも迷惑を掛けない死に方は?、遺書の書き方など、検索履歴を見ると自分でも苦笑いしか出てこない内容に、また気持ちも更に落ち込んだ。
…死んだら楽になるだろうな…。
手渡したでも死ぬのは簡単じゃないだろうな…。痛かったり苦しかったり、何かしらツラい思いはするのだろうし。
慧は、検索結果画面をぼーっと見ていると、一つの掲示板サイトを見つけた。
「『死にたいくん、死にたいちゃん集まれ』…どんな掲示板だ?」
慧はおもむろに掲示板サイトを開いた。すると、死というイメージとは程遠い明るい色使いのサイトが現れ、慧は『ようこそ』と書かれたサイトの始めの文章に目を通した。
「『生きていることが辛くなったあなた。あなたは一人じゃない。同じ思いを抱いた同士は山ほどいる。死にたいと考えているあなた。そのタイミングは今ですか?みんなで考えよう、死ぬタイミングを。』。…死ぬタイミング…。」
それは今なのか明日なのか、はたまた一週間後、一年後、十年後、もはや自ら命を終わらせるタイミングなど無いのか。
慧は考えながら掲示板をスクロールし、次の項目『理由』をタップした。
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