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『死にたいと考えてしまう理由は何ですか?先ずはその理由をゆっくり考えてみましょう。』
飛んだページの先にはその文言だけが表示されていた。単なる自分の思いを好き勝手に書き込んでいる掲示板サイトだと思っていた慧は、少し不思議な気持ちになったが、その言葉通り自分が死にたいと思う理由を考えてみた。
「…理由…か。」
平凡な毎日の繰り返し。朝決まった時間に目覚ましで起きて、トイレに行って、同じトーストを食べて、同じ電車に乗って大学に行って、帰ってきたらたまにコンビニバイトに行って、帰ってきたら夕飯食べて風呂入って寝る。休みの日は、バイトの時間が長くなるだけ。
何で大学なんて行かなくちゃ行けないんだ。そう思いながら、親が勧めてきた大学を受験した。大学くらい出てないと就職できないわよ。母親の言葉だ。
何でバイトなんてしないといけないんだ。そう思いながら、親が募集チラシを持ってきたコンビニで面接を受けて、当たり障りのないことを答えてたら採用された。大学生ならバイトくらいしろ。父親の言葉だ。
何で僕には彼女ができないんだ。奏たちの話を近くで聞いていると、しょっちゅう男友達と遊んでいるようだ。何で僕は誘われないんだ。『慧は真面目くんだからね。』、ある時、奏に言われた言葉だ。
みんなみんな、僕の人生を雁字搦めにして、僕にプレッシャーをかけてくる。みんなみんな、僕のためだなんて考えているかもしれないけど、僕にとっては大きなお世話なんだ。
…こんな人生、何が楽しいんだ。
この先の未来に何が待ってる。…じゃあ、慧は将来何になって、何をしたいかって?その質問自体がストレスなんだ。
みんなみんな、消えてしまえばいい。みんなみんな、消えて無くなればいい。みんながそうしないなら、僕が消えてやるよ。
「…繋がった。」
慧は、モヤモヤとした気持ちのままマウスを握り、『次へ』と書かれたアイコンをタップした。
『やり残したことはありませんか?』
飛んだページには、また文言だけが表示されていた。
「…やり残したこと。」
そんなのいっぱいあるに決まってんだろ。来月発売のゲームソフト買いたいし、その翌月公開のあの映画は絶対見たい。あと、あのアイドルの写真集の発売も決まったし、あれは見るまで死ねないだろ。それから…。
…あれ?こんなもん?…いや、あとあれだあれ!彼女はつくらないと!彼女は絶対つくりたい!…彼女つくって何したいかって?
…デートに決まってんじゃん。デートして…あれ?デートって何すんだろ。…デート?違うだろ?本心は女とセックスしたいだけだろ?セックスできればそれでいいんだろ?
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慧は画面を見ながらしばらく固まった。
「…僕って、しょーもな…。」
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