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三崎は慧を屋上に連れ出した。屋上からは1日の始まりを告げる神々しい光が綺麗に見えた。慧は、羽菜との関係の新たな始まりの光にも感じていた。 慧が気持ち良い空の下で、身体を伸ばす動作をしていると、三崎がスマホの画面を慧に見せた。何だか分からない慧は、とりあえず画面に視線を向けた。
「…これって。」
あの掲示板サイトだった。
「桐生さん…いや、19歳の死にたいくん、最近掲示板見てないの?」
「…何で三崎さんがこの掲示板のことを?」
「ふふ、羽菜ちゃんと同じ表情するのね。…私よ、私が管理人ケイプ。」
「…まさか。ケイプ…岬…みさき…三崎。」
ハッとした表情の慧を見て、三崎はフフッと笑った。
「単純でしょ。いつか会って話がしたい。私そうコメントしたわよね。」
「えぇ。何故あなたがそんな掲示板を?」
「その話はあとよ。そのまま、死にたい方の掲示板スクロールして見てみなさい。」
慧は言われるがまま、指を上にスライドさせた。
『16歳の死にたいちゃん。
私の前から光が無くなった。死にたい。』
『16歳の死にたいちゃん。
死にたい。けど死ぬのが恐い。でも死にたい。』
『16歳の死にたいちゃん。
何で何もコメントをくれないの?19歳の死にたいくん。』
「…これって…。」
「あなたが居なくなって、彼女急に体調崩しちゃってね。彼女に教えたの、19歳の死にたいくんがあなただって。連絡したがってたから。…不思議よね、連絡は届いてなかったはずなのに、あなたは彼女の元に戻ってきたんだから。…人はこれを『運命』って言うんじゃないかしら?」
慧は三崎の言葉を聞きながら、心の中でずっと羽菜に謝り続けた。あの時、掲示板を見ることを止めなければ、あの時、自分からコメントを出していれば、羽菜にツラい思いをさせずに済んだかもしれない。
三崎は手を伸ばし、慧はスマホを返した。三崎は「ありがとう。」と言うと慧から視線を逸らし、朝日の方向を見ながら突然話を始めた。
「…私の弟ね、あなたと同じ歳で自殺したの。」
「…え?」
「家族の誰も弟の苦しみに気付いてあげられなかった。弟はそんな私たちにメッセージを告げるように、家族が集うリビングの真ん中で、電気に吊るしたロープで首を吊って死んだ。朝ご飯の用意で一番に起きてきた母親が見つけてね。…あんなに最悪な朝は無かったわ。」
「…弟さんはどうして。」
「それは今も分からない。友達に聞いても誰もが信じられないと口にするばかりで。…桐生さん、人はね、皆、他人のことを分かってるつもりでいるのよ。家族だからって他人の気持ちや考えなんて分かるはずがないのに…。私は、弟のような人を減らしたかった。」
「それで掲示板サイトを?」
三崎は慧に振り向いて頷いた。
「同じ死にたいって思ってる人でも、その原因は様々でしょ。自分の方がマシかと思えればそれは一つの切っ掛けになる。真反対の生きたい人の掲示板とリンクさせたのも、生きたいのに死が迫ってる人たちが沢山いることを理解して欲しかったの。…あなたは、考えが変わった一人でしょ?」
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