君を忘れない

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慧は三崎の横に移動して、空を見上げた。 「確かに、この掲示板が無かったら羽菜ちゃんと出会えて無かったかもしれないですし、今こうして空を見上げることも無かったかもしれません。生きていく希望なんて持てなかったかも…。」 「ありがとう。そう言って貰えるのが一番よ。羽菜ちゃんのこと、最期まで支えてあげてね。」 「…最期なんて言葉は聞きたくないですね。」 「ごめんなさい。でも、私は医療従事者だから嘘はつけない。あの子の身体は長くはない、これは現実よ。」 慧は聞きたくないと首を横に振った。すると、三崎は慧の肩を掴み、慧と向き合うと目をじっと見つめた。 「…でもね、人の人生って長さが全てじゃない。短くたって濃密で素晴らしい人生だったって思えたなら、それだけで最高なことよ。そして、羽菜ちゃんがそうなるにはあなたが必要なの!」 …僕が必要…。死にたいって思っていた人間が、まさか他人の人生の力になれるときが来るなんて。神が許すのならば、僕が代わってあげたい。それが不可能ならば、僕の全てを彼女に捧げよう。 慧は三崎とその背後に輝く朝日に強く誓った。 慧が一人で病室に戻ると羽菜はまだ眠っていた。そっと羽菜に近付き、健やかな寝顔の羽菜の髪を優しく撫でた。 「…桐生さん。…むにゃむにゃ…。」 「ん?…なんだ寝言か。ふふふ。」 慧は微笑んで、羽菜のおでこにそっとキスをした。 「僕が君の青春になる。」 慧はそう呟くと羽菜から離れた。 「ほんとですか?」 羽菜の声に慧が驚いて振り返ると、羽菜が顔を赤らめて天井を見ていた。 「え、あ、起きてたの?…どのあたりから?」 慌てる慧に羽菜は右手をおでこに当てながら答えた。 「ここ…暖かいです。」 「ご、ごめん。つい…。」 羽菜は慧に手招きした。慧がゆっくり近付くと羽菜は慧の腕を掴んで顔を自分に近付けた。そして唇をそっと重ねた。 「え?」 驚いて固まる慧。羽菜は唇を離すと反対側を向いて顔を隠した。 「や、約束守ってくださいね。私の青春は桐生さんに預けましたから。」 慧は唇を指でそっと撫でて、「約束するよ。」と答えた。
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