君を忘れない

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「慧さんは私に約束とおり、毎日幸せな時間をくれた。楽しいお話に話題の本やゲーム、それから恋愛も。由香里たちとは違う、素晴らしい青春を私にくれた。…本当に本当に慧さんに会えて…良かった。」 溢れる涙が枕に滴り落ちていた。慧は羽菜のすぐ隣に座り優しく抱き締めた。 「もういいよ。ほら疲れちゃうから。もう十分分かってるから。僕もだよ、僕に羽菜が素晴らしい青春をくれた。生きる希望をくれた。…まだまだ、もっともっと幸せな気持ちにさせてくれ。僕も羽菜をもっともっと幸せな気持ちにさせるから。ね。」 慧はそのままキスをした。涙が羽菜の頬にポタポタと垂れた。羽菜は微笑んだ。出会った頃と変わらない羽菜の笑顔だった。 それから二か月後、今冬一番の寒い日に羽菜は容態を急変させ亡くなった。 その数日前から会話が出来る状態じゃなくなり、慧は考えたくは無かったが、心構えは出来ていた。大学での講義中に、三崎から連絡が入り、抜け出して急いで病院に向かった。こんなに走ったのは、奏ではなく羽菜を選んだあの夜以来だった。 息切れと羽菜を失う恐怖で、心臓が張り裂けそうになるくらい早く鼓動していた。病院に着くと待っていた三崎に連れられ集中治療室に通された。 部屋に入っていきなり視界に飛び込んできたのは、心臓マッサージをされている羽菜の姿だった。慧は溢れる涙を拭うことなく羽菜に駆け寄った。母親が慧が来たことを羽菜の耳元で叫んだ。慧は羽菜の痩せ細った手を強く握った。冷たかった。慧は温かくしようとギュっと両手で握った。 「羽菜!羽菜!」 …頼む、頼むよ神様…。この子をもう少し、もう少しだけこの世にいさせてあげて。 しかし、現実は残酷だった。心臓マッサージをしていた医師が手を止めた。 「…嘘だろ…。」 ピーッという心停止を告げる機械音が鳴り響いた。取り乱す母親の横で、医師が羽菜の眼球をペンライトで照らした。 …やめてくれ。やめてくれ。やめてくれ。 医師が臨終を告げ手を合わせた。慧は、一気に身体の力が抜けた。そして、今度は優しく手を握りしめた。 「…羽菜。頑張ったな、頑張った。…ありがとう。」 慧は羽菜の頬を優しく撫で、おでこにキスをした。
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