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羽菜が霊安室に運ばれると、慧は病院の屋上に来ていた。二人が出会った場所で、慧は空を見上げた。寒い夜は空気が透き通っていて星空が綺麗に輝いていた。
「桐生さん。」
呼ばれて振り向くと三崎がいた。三崎の手には羽菜のスケッチブックが握られており、三崎は慧に手渡した。
「パラパラ捲ってみて。」
慧は言われたままパラパラ捲ると、丁度真ん中あたりのページに何かが挟まっていた。
「…これは…花?」
「あなたが羽菜ちゃんにあげたエーデルワイス、私が押し花にしたの。あなたには内緒にしてた羽菜ちゃんの御守りだったのよ。」
「…羽菜…。」
慧はスケッチブックを強く抱き締め地面に座り込んた。
「星が綺麗ね。こんな寒い日に屋上なんて出たこと無かったから気が付かなかったわ。…この無数の星のどれかが旅立った羽菜ちゃんなのね。」
「…僕は、彼女にやれるべきことを全部してあげられたんですかね?」
「まだよ。」
「え?」
慧は三崎の顔を見つめた。
「あの子の分まで生きるの!あなたにはまだそれがある!これから先、死にたいなんて思わないで。羽菜ちゃんのためにも。」
三崎は涙が溢れないように天を見上げながら言った。慧は立ち上がり、三崎の隣で羽菜の星を探した。
その時、真上で一筋の流れ星がとおったことに、二人は気が付かなかった。
そして僕は今、羽菜のお墓に来ている。羽菜に初めて出会った夏の日に。
「もう勇気や忍耐は必要じゃない。だから、今日はシオンの花を持ってきたよ。まだ時期じゃないから探すのに苦労したけど。どうしても、この日に持ってきたかったんだ。」
慧は花瓶に挿したシオンを墓前に置いて手を合わせた。
ー シオンの花言葉『あなたを忘れない』ー
ー 完 ー
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