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泣き虫
「私ってさ、泣き虫なんだよね」
狭いアパートの一室、先ほどまで映画を見ていた石野沙織は言った
「そうか?あんまそんな感じしないけど」
彼氏である成川隼人がボロいソファから答える
「でも、さっきの映画でも私だけ泣いちゃってさ。隼人は全然なのに」
「泣き虫ってそっちのことか。まあ、感受性豊かなのはいい事だろ。まさか泣きすぎて途中でどっか行くとは思ってなかったけどさ」
「そうなんだけどさ、涙だって流し続ければそのうち枯れちゃうかもしれないんだよ」
「別にそんな困るこったねえだろ」
「困るよ!大切な人が居なくなっちゃった時に涙が流せないのがどれほど辛いか、」
沙織は、乾き切っていない瞳を再び濡らしている
「なんだよ急に、そんな怒ることかよ」
「隼人はさ、もし私が死んだら悲しんでくれる?泣いてくれる?」
「ああ、そりゃ悲しいさ。涙だって流すだろうさ」
「本当?」
「ああ、本当さ」
「じゃあ」
短くそう言うと、沙織はキッチンへと駆け出した
「ったく、どうしたってんだよ面倒臭せぇ」
ドタドタと音を立てて戻ってくる沙織
その手には包丁が握られていた
「おい、急にどうしたんだよ!なんでそんなもん持ってんだ!」
隼人はソファに腰をかけたまま、手を開いて突き出し恐怖を顔に貼り付けている
「隼人はさ、私が死んだら悲しんでくれるって言ったよね?」
「ああ、言った。言ったけど、それがどうしたんだ」
「試してみようと思って」
そう言うと沙織は自らの首へと刃を押し当てる
「ちょっ、まて。落ち着け、な?」
沙織は押し当ていた刃をゆっくりと肌へ滑り込ませていった
狭いポロアパートの一室に、真っ赤な鮮血が破裂した
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