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ずっと癒えない渇き
日頃の自分のだらしなさ具合がこんなところで役に立つなんて思っていなかった。
「ぅお、入ってた。ラッキー……」
突如降り始めた真夏の雨に不釣り合いとも思われそうな安堵のため息を吐きながら、着替えやらタオルやらが適当に突っ込まれているいつものカバンから折りたたみ傘を取り出した。
カバンの奥底に押し込まれていたので、骨のひとつやふたつ折れていやしないかと少しハラハラしたものの、無事にバシッと開いてくれた。
これにはもう一度安堵のため息を漏らすしかなかった。
こんなことを言ったら、アイツはバカにしてくるんだろうけど――。
「何をいまさら」
ズキリと痛みかけた自分の心臓を誤魔化すように、自分で空想しかけたことを自分の手で払いのける。
ズシリと重みを預けようとする前に何とか視界から葬り去ることが出来て、安心しながらにわか雨の中へと突っ込んでいくことにした。
しかし、その安心もわずかしか保たなかった。
それほど大きくもない折りたたみ傘をゆがめるような勢いで降る雨は、いつもならば遠くでもハッキリと見えるはずの小高い山を完全に隠している。
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