ずっと癒えない渇き

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 道行く人の姿はほぼない。  傘を忘れた学生やチャリ通学の学生はこの雨が止んでくれることを信じてまだ学校に残っているのだろうし、そうじゃなければこんな中途半端な時間に帰ることもなく早々に帰宅の途についていることだろう。  オレだって妙な委員会活動に巻き込まれていなかったらもうとっくに家でマンガでも読んでいる頃合いだった。  アスファルトを雨が叩く音。  傘を雨が叩く音。  通り過ぎていく車の水しぶきの音。  そのどれもが乾いて聞こえてくるから不思議だった。  もう少しで我が家だというところまで来て、ようやく人影を見つけた。赤信号で足止めをされているその人はこの雨で傘も差さずに、俯きがちに信号が変わるのを待っている。  目抜き通りを渡る信号はあいにくこのまま二分くらいは赤のままだろう。  せめてもう少し天気が良くなるのを待てば良かったのに――。 「あ……」  一瞬だけこちらを向いたその人影は、よく知っている――知りすぎていてうんざりするくらいには知っているヤツだった。 「イツキ?」 「ミズホ……」
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