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これでも最善策を採ったつもりだった。
「……別にイイ」
「イイってこと無いだろ」
ミズホはこちらに背を向けたままで言い捨てた。
その態度にすこしイラつくが、さすがにそこまで濡れている人間を放置していくほど、オレも人間を辞めてはいない。
「ほら。……早くしろって」
「イイからっ」
「だから、何がだよ!」
強情だ。思わずこちらも言葉尻が荒くなる。
「なんで……!」
「ぁん?」
俯いて何かを呟いたミズホに近寄る。
――が。
「何でよっ!?」
「……っ!」
何か弾かれるように顔を向けてくるミズホ。
その瞬間の目尻から、明らかに雨ではない雫がこぼれていった。
「お前……、なんで泣いて」
「泣いてないっ」
長年の付き合いが成せる業か、そんなセリフが返ってきそうな気はしていた。
だけど、そう訊かないでもいられなかった。
オレの予想通りに機嫌を損ねたミズホは、それでも一度こちらにぶつけた視線を逸らそうとはしなかった。
雨と涙で頬を濡らしながらも、勝ち気そうなその瞳は、まるで先に逸らした方が負けだ、とでも言っているようだった。
「泣いてないもん……」
「……だったら、何だよ」
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