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明らかにぐずついているのを――隠せなくなっただけかもしれないが――隠そうとしないミズホに、少しだけ冷静になる。
そのおかげで、自分が傘を独占していることに気が付いた。
いくら喧嘩のようになっていても、いい加減傘が無いとダメだろう。
距離を詰めて、傘をミズホに傾げようとした。
「……っんとに、なんで、そういうこと」
「……え?」
傘を向けようとした手が不意に止まる。
「何だってんだよ?」
「イツキは! 何で、私にそういうことをするのっ?」
「はぁ?」
何で、って。
「そんなの、お前、そんなに濡れたら絶対風邪ひくだろ。いつだったか忘れたけど、昔もそういうことあったじゃねえか」
ありがた迷惑に思われる筋合いは無い。
そんなことを口調に込めて言ってやる。
そうすればミズホはそれくらいのことなら読み取って、また反撃のひとつやふたつ飛ばして寄越すだろう。
「もう、ヤだ」
その予想は、見事に外れた。
唇を震わせて眉間を歪ませて、ミズホは静かに、ただひらすらに、まるでこの雨のように涙をこぼし続けた。
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