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かける言葉もどこかへ吹き飛ばしてしまったオレは、ただ泣いているミズホを見下ろすばかりだった。
そういえばこれくらいの身長差があったっけ、などと考えているどこか冷静な自分も居て、それが不思議な感覚だった。
――けれど、そんな冷静さもここまでだった。
冷えきった手が、傘を持つオレの手に重ねられた。
あまりの冷たさにもう片方の手で、ミズホの手を包んでしまう。
「忘れられないのよぉ……」
余計なことをしてしまったのか、ミズホは声まで震わせてオレを見上げてくる。
「何を、言って」
「何で忘れさせてくれないの……?」
「そんなこと……、オレが知るかよっ」
すがりついてくるようなミズホの手を払いのけようとして、思いとどまる。
唇を噛む。
噛みしめる。
ずぶりと嫌な音を立てながら、生ぬるい鉄の味が舌先を転がってくる。
これ以上、泣いている顔を見ていられなかった。
いつの間にか青になっていた信号は、今はもう点滅を繰り返している。
払いのけようとした彼女の手に、自分が持っていた傘を預けて、そのままオレは走り出した。
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