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景の都
呆然自失状態の奈美が我に返ったのは、広大な街が遠目に見えてきた頃だった。それまではどこもかしこも山と森だらけだった大地に、突然大きな人工物が出現したのから当然と言えば当然かもしれない。
そのときになって始めて、奈美は自分がテスの瞬足によって空の上にいることに気付いた。
「ーーーーーーッッ!!」
「ようやく正気に戻ったか」
奈美が声にならない悲鳴を上げたことに気付いたのか、背後から声がした。奈美がこわばった首で何とか後ろを振り返ると、ライカが後ろから奈美の体を落ちないように支えていた。
「どうして、私、こんな所に……!?」
「……やはり聞いてなかったか」
ライカが呆れ気味に溜息をつくと、未開の地にぽつんと浮かぶ街を指さした。
「あれが景ノ国の都だ。まもなく着く」
「え……!?」
「ナミの姉貴! 気が付いたんすね!」
先頭を行くテスが振り向いて笑った。ライカも皮肉っぽく笑った。
「街に着くまでは正気に戻らない方が良かったかもな」
「え? どういうこと?」
奈美がきょとんとした顔で訊ねると、テスが申し訳なさそうに言った。
「そんなわけで、今から街に降りるんで、舌噛まないようにしてくださいっすね」
まだ頭が完全に復活していない上に、風を切る音で彼らの声がよく聞こえなかったので、奈美は訳が分からなかった。
何となく分かったのは、今からあの大きな街に行くということくらいだろうか。つまり、これから身のすくむ降下が待ち受けているわけだ。
奈美が覚悟を決めた次の瞬間、奈美のみぞおちがぎゅっと竦んだ。まさに、ジェットコースターで急降下するような、あの感覚だ。
声にならない悲鳴を上げながら、奈美の体は地面へと急降下していった。後ろでライカが体を支えてくれていなければ、今頃奈美は地面に投げ出されていただろう。
地面に足が着く直前で、ふわりと体が浮き、それからゆっくりと着地した。この世界で生きていくためには、命がいくつあっても足りない──奈美は改めてそう思った。
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