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プロローグ
奈美は崖の上に立っていた。目の前には、平野が遠くまで続き、山々がうっすらとそびえている。
自分のよく知る世界に似ているこの景色に、奈美は違和感しか覚えない。何故なら、いくつもあったはずの街がひとつもないからだ。奈美の住んでいた街もあの辺りにあったはずなのだが、もちろんない。
奈美の後ろには、風変わりな三人の男たちが立っていた。映画のような奇妙ないでたちをし、本物の剣を振り回し、空を飛ぶ。そして彼らは、スマホも、徳川家康も、日本という国も、知らない。
──信じたくなかった。自分が並行世界に迷い込んでしまったなんてことは。
だが、こうして目の前に証拠を突き付けられては致し方ない。
「──パラレルワールド……?」
奈美はふらふらと崖の際きわに近づき、あと一歩で落ちるというところで足を止めた。男の一人に「落ちるぞ」と制止されたが、いっそのこと落ちてしまえばいい。もう一度、この崖から落ちれば、元の世界に戻れるかもしれない。
「ホントに……? ホントに、別の世界に、来ちゃったってワケ?」
本当に、寄る辺のないこの世界に、一人きりで。
奈美は泣き叫ぶ代わりに、崖の上から絶叫した。まるで悪い夢から目覚めようとしているかのように。
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