冬のはじまり

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「櫂……」 櫂の名前を見るたびに心臓が掴まれる感覚。 本当はずっと、櫂と話したい。 櫂の声が聞きたい。 でも怖い。 皆、どうやって好きな気持ちを消してるんだろう。 どうやって諦めてきたんだろう。 教えてほしい。 だって私にとって櫂が初めて好きになった人で、初めての彼氏だから。 我慢していた涙が溢れてきて止められない。 スマホに郁人から電話がかかってきて、私は通話ボタンを押していた。 「叶絵!やっとつながった!」 「……っ」 「叶絵?……泣いてるの?」 涙で上手く声が出なくて、ただスマホを耳に押し当てているだけ。 郁人は何かを察したのか話を続けた。 「叶絵、莉乃と一緒に家に帰ったんだよね?」 そう言い当てられて何も言えない。 そりゃ分かるか。 莉乃と一緒なんて、家に帰りますと言っているようなものだ。 「あのね、叶絵。一人で色々考えて我慢して苦しむの、叶絵の悪い癖だよ。それって、僕たちの事信用してないって言ってるようなもの」 「……っ」 「でも僕たちは叶絵がずっと僕たちを避けてきたから、何となく叶絵がやりそうなことも行きそうな場所も分かるんだよ。僕たちにそんな特技を身に付けさせてくれてありがとう」 これは、完全に嫌味を言われている。 それどころかめちゃくちゃ郁人が怒っている。 「言ったよね?僕たちは絶対に叶絵を一人にしないって。今は莉乃と一緒にいるかもしれないけど、この時間だ。絶対に莉乃は寝てるよね?」 なんで分かる!? ビクッとしてスマホを落としそうになる。 スマホの向こうで郁人の黒い微笑みが伝わってきた。 「どうせ一人で色々考え込んでるんでしょ?傷つくなー。何も言ってくれない、頼ってくれない。僕らはこんなにも叶絵を大好きなのに」 「ご、ごめ……っ」 「ダメだよ、叶絵。僕は許してあげない。……櫂と仲直りするまでは、ね」 「え……」 どういうことか分からずに固まっていると後ろから抱き締められた。 ビクッとして離れようとすると後ろの人は私を抱き締めたまま口を開いた。 「捕まえた」 その声はずっと聴きたかった人のもので…… 私の、好きな人のものだった。 涙が溢れてきて声が出ない。 櫂はそのままの体勢で続けた。 「ごめん」 「……っ」 「郁人に聞いた。叶絵、俺が道宮に告白されたの見たって」 「っ!」 「なんで聞いてくれなかったの?俺が道宮と付き合ったと思ったの?」 どう答えればいいのか分からなくて頷く。 すると櫂はため息をついた。 ・
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