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マンションの部屋に帰ると疲れが一気に押し寄せてきた。
荷物をその場に投げ捨て、体操服のままベッドに身を投げ出す。
しばらく学校に行けないのか……。
さっきの道宮さんの言葉が頭に残っている。
『西村くんが好き』
櫂って、本当に女の子を簡単に好きにさせるの上手いよな。
道宮さんは裏表が無くて、誰とでも仲良くなれて、明るくて、悪口も言わないいい子だ。
私が櫂を好きじゃなければ、きっと私も道宮さんを好きになっていた。
そして櫂と道宮さんが付き合えるようにしてた。
誰だって、明るく笑う彼女の顔を曇らせたくはないだろう。
莉乃だって絶対に道宮さんに助けられてるって分かる。
いい子だからこそ、嫌いになる。
だって私がいい子じゃないから。
枕に顔をうずめて息をつく。
私、櫂の彼女で居ていいのかな。
櫂は私をこの先も好きでいてくれるかな。
『人気者はいいよね。周りが勝手に後押ししてくれて』
どうしてあんな嫌なことを言ってしまったんだろう。
ああ言った後の道宮さんは、とても悲しそうな顔をしていた。
周りがしたことは道宮さんのせいじゃないって頭では分かってるのに、どうしてもそれが嫌だって思ってしまって。
こんな嫌な性格の女、ずっと櫂が好きでいてくれるはずない。
グルグル頭の中で嫌な事ばかり考えてしまう。
なんだか泣きそうになって、私はそのまま目をつむった。
そして気が付けば私は眠っていた。
次に目を覚ました時、手が握られているのを感じた。
視線を下ろすと、私の手を握っていたのは櫂だった。
ベッドに突っ伏して寝ている櫂をボーっと見つめる。
「櫂……」
声をかけると櫂が目を覚ました。
それから私を見て口を開いた。
「大丈夫?」
「うん。今何時?」
「18時過ぎ。永草と郁人から聞いたけど、体大丈夫なの?」
「さっきまでだるかったけど、ちょっと寝てスッキリした。しばらく学校もバイトも休めって」
「いや、当然でしょ。頭打ったんでしょ?てか、それで体育祭出てるってどういうこと?」
「……櫂達に負けたくなかったんだもん」
「は?なんで?俺達同じチームじゃん」
「だって櫂は道宮さんを助けるために頑張ってるし、私を助けるためじゃないから」
「何言って……」
「櫂と道宮さんが一位になって周りから認められるのが怖かったの」
櫂は私が言ってる意味が分かってないのか首を傾げた。
息をついて起き上がろうとすると櫂が私の事を支えてくれた。
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