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「叶絵ちゃん」
「……何?」
「叶絵ちゃんは、西村くんの事をどう思ってるの?」
そんな事を聞かれるとは思ってなかった。
なんて答えるべきか悩んでいると道宮さんが続けた。
「私は、西村くんが好き」
それは見ていれば分かっていた事。
それなのに本人の口から聞くとこんなにもショックなのか。
「誤解しないで欲しいんだけど、莉乃と友達になったのは本当に莉乃と友達になりたいって思ったからだから。決して西村くんに近づくためとかじゃないから」
「うん」
「それに私は、西村くんの外見なんかどうでもいいし」
そうだろうな。
道宮さんはそんな子じゃない。
分かってるし、知ってるからこそ嫌になるの。
「あまり笑ってくれないし、最初は『怖い人だな』って思ってた。でも、人の事ちゃんと見てくれて、スッと助けてくれたりする。優しくて暖かい人なんだって分かってからはどんどん好きになっていった。だから、西村くんがいつも気にしてる叶絵ちゃんは西村くんをどう思ってるのか知りたい」
そんなの、道宮さんに言われなくても知ってるし。
櫂がどれだけ優しくて、どれだけ素敵な男の子なのかなんて。
道宮さんなんかよりもずっとずっと、私は櫂を見てきたんだから。
「私も櫂が好きだよ」
「……!」
「だからこそ、この競技で絶対に負けたくない。周りが道宮さんと櫂を祝福する声なんて絶対に聞きたくない。私は、大人しく待ってるだけのお姫様だなんて柄じゃない」
前から走ってくるのは櫂と永草くん。
私は息を大きく吸った。
「永草くん!!鍵投げて!!」
一瞬永草くんは首を傾げたけど、理解して吹き出した。
器用に鍵を投げて檻の中の私に渡す。
周りの人は驚いていた。
「叶絵ちゃん……っ!」
「人気者はいいよね。勝手に周りが後押ししてくれて。でも、それを妬む自分が嫌になるからあんまり見せつけないでもらえると助かる」
そう言って自力で鍵を開ける。
「道宮さん、教えてくれてありがとう」
永草くんは私の前に来るとそのまま私を抱き上げようとした。
すると何故か櫂が永草くんの肩を掴んだ。
「……何してんの?櫂」
「西村くん、鍵持ってるなら道宮さんを助け出さないと」
私達がそう言うと櫂はハッとして、そして眉を寄せて道宮さんの方へ向かった。
私だって櫂に助けてもらいたかったよ。
櫂が走ってくるのは、私を助けるためじゃないって分かってるのに期待した。
付き合ってるはずなのに、付き合ってないみたいだ。
永草くんは私を抱き上げるとそのまま走り出した。
「重くない?」
「全然。叶絵ちゃん軽すぎて、風で飛ばされるんじゃない?ちゃんと掴まっててね」
「飛ばされないから」
「どうだか。腕の中見たら飛んでいってたなんて事にならないようにしないとね」
永草くんの冗談が面白くて笑ってしまう。
私達はそのまま一位でゴールをしたのだった。
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