冬のはじまり

2/8
前へ
/138ページ
次へ
文化祭から何となく私達の間に気まずい空気が流れるようになった。 私が櫂を避けるようになったのが大きな原因かもしれない。 全く会話をしていないわけではないけど、他人行儀になったと言った方がしっくりくるかもしれない。 何度も私と話そうとする櫂を私は避け続けているのだ。 「そろそろ話してあげれば?」 郁人にそう言われて悩む。 郁人には櫂を避けている原因を伝えている。 もしかしたら櫂は道宮さんと付き合ったかもしれないって。 郁人はそんな事ないって言うけど、道宮さんと櫂の会話を聞いた私からすれば櫂を信じられないのが全てだ。 今櫂と話したら絶対に別れ話だって分かってる。 だからこそ話せない。 まだ心の準備が出来ていないから。 私は櫂がまだ好きで、本当は別れたくない。 このままズルズル知らないふりをして付き合ったままで居られないかってズルい考え方まで浮かんでくる。 「櫂、困ってるよ?」 「分かってる。……でも、櫂から別れ話されるのが怖い」 「そんな事ないって」 「そんな事あるの」 私の言葉にため息をつく郁人。 分かってるよ。 郁人と莉乃にも悪い事してるって自覚もある。 皆を巻き込んでるのは私の悪い所だ。 ああ……だから一人で良かった。 私は皆と違うって思ったままで良かった。 前を向けるようになって、自分が変われたような気がして。 ……皆から離れたままで良かったのに。 ぼんやりしながら毎日を過ごす。 そんな私を波音達は心配してくれていた。 これから自分がどうすればいいのか考えて過ごして、結局同じ答えにたどり着く。 そうだ、皆から離れればいい。 昔みたいに一人で。 結局私は幸せにはなれないのだ。 家族を得られても、親戚と縁を切っても。 櫂が好き。 この気持ちはこれから先もずっと消えないだろう。 私の大事なヒーローだから。 『一人にしない』 そう言ってくれた大事な人。 でも、人の気持ちなんて簡単に変わってしまうから。 それから私はバイトの量を増やした。 郁人や桜には心配されたけど、自分の体がどうなってもどうでも良かった。 夜遅くに帰る事が多くなった。 皆が寝静まったリビングに一人ソファーに座る。 ボーっとしていると隣から水が差しだされた。 驚いて振り返ると莉乃が困ったように笑っていた。 「おかえり」 「莉乃……」 「まだご飯食べてないよね。温めるからちょっと待ってて」 「いいよ、自分で出来るから。莉乃はもう寝て」 「ううん。叶絵と話したいから」 莉乃はレンジでご飯を温めてくれた。 それからテーブルに並べると私に椅子に座るように促した。 仕方なく座ってご飯を食べる。 莉乃は私の前に座って口を開いた。 「叶絵」 「何?」 「一緒に帰らない?」 「え?」 一瞬何を言われたのか分からなかった。 帰るって……。 ・
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加