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「叶絵。俺は昔から叶絵しか見てないよ。道宮は良い奴だし、莉乃の友達だし、関係悪化させたくなかったから普通に話してるだけ。俺が好きなのは叶絵だけだし、当然道宮の告白なんて断った。ちゃんと『俺は叶絵しか見てない』って宣言したよ」
「え……」
「俺の事、信じられない?」
だって櫂は言ってた。
『恋だって錯覚してるだけ』
そう道宮さんが言った時、『そうかもな』って。
それって、私への気持ちは恋じゃないってことでしょ?
じゃあ櫂の『好き』って何?
「どこまで見てたか分からないけど、道宮は俺の気持ちが恋じゃないって言った。確かにそうかもしれない。最初は叶絵の事放っておけなかったし、壊れそうな叶絵を見て『助けないと』って気持ちの方が大きかったのは認める。でもさ、じゃあ叶絵の親父さんが亡くなる前から叶絵を想ってた気持ちは何?って感じじゃない?」
「……っ」
「間違いなく俺の気持ちは叶絵への愛だよ。今だってこんなにも、キスしたくてたまらないのに」
櫂に頭を撫でられて涙が止まらなくなった。
私は馬鹿だ。
嫌なことからすぐに逃げてしまう。
櫂の気持ちを聞けって莉乃も郁人も言ってたのに、どうして逃げたりしたんだろう。
心のどこかで私はまだ、櫂と自分が一緒にいてはいけないって思ってるんだ。
櫂を不幸せにするって。
それでもいいって、櫂は思ってくれてるはずなのに。
どうして私は誰の事も信用できないんだろう。
「ごめ…なさ……っ、櫂……っ」
「じゃあこれで仲直り。もう俺の事避けないで。凄く辛かった」
「うん……っ」
涙を拭いていると櫂に振り向かされた。
正面に櫂がいる。
それだけで心臓がドキドキした。
「あんま、見ないで……。泣いた後でブサイクだから……」
「なんで?ずっと見れなかったんだから見たい。それに俺言った」
「え?」
「キスしたいって」
「!?」
ビクッとして真っ赤になる。
櫂に頬を撫でられて固まってしまう。
「真っ赤……可愛い」
櫂はクスッと笑うとそのまま私にキスをした。
優しく、何度も。
さっきまで寒かったのに今はとても熱い。
頭がぼんやりして溶けてしまいそうだ。
櫂が離れると恥ずかしくなって俯いた。
「い、郁人は?」
「実家。俺も叶絵と仲直りしたら実家行くから」
「そう……」
「明日、帰ろうな」
「うん」
「あと、無理にバイト詰め込まないで。倒れられるの嫌だから」
「分かった」
「約束したから」
櫂にもう一度キスをされて、私の手を掴んで櫂は歩き出した。
家まで送ってくれると櫂は自分の家に向かった。
私も自分の部屋に向かうと莉乃はまだぐっすり眠っていた。
扉を背にして座り込んで、私は口を押えて真っ赤な顔で声にならない叫び声をあげていたのだった。
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