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「叶絵が自覚してないのは今に始まった事じゃないでしょ?櫂が怒るような事でもない」
莉乃が私と櫂を引き離す。
呆然とする私の手を莉乃は掴むと私に笑いかけた。
「一緒に帰ろう!」
「あ……うん」
帰ると言っても途中までなんだけど。
それでも私と一緒に居てくれる大事な幼馴染たち。
劣等生の私を対等に見てくれる優等生たち。
お父さんを奪ったこの世界が嫌いだ。
だけど、幼馴染の皆と一緒にいるこの時間はとても好きだ。
『叶絵、莉乃ちゃんや櫂くんや郁人くんは叶絵にとって大事な友達だからね。3人が困っていることがあったら絶対に助けるんだよ?』
お父さんの言葉を思い出す。
大事な友達。
だからこそ、私から引き離さないといけないんだろう。
この世界を呪ったままの私と一緒にいてもきっと幸せにはなれない。
3人と別れる場所まで来て私は3人に手を振った。
「叶絵」
不意に櫂に名前を呼ばれる。
「何?」
「またな」
「え?うん」
いつもはそんな事言わないのに、どうして今日はそんな事言うんだろう。
入学式で浮かれてるとか?
櫂に限ってそんな事ないだろうけど。
不思議に思いながら私はマンションまで歩いた。
マンションまで帰ってくるとそのままベッドにダイブする。
一人だけの部屋。
誰の声も聞こえない静かな空間。
寂しいなんて感情は押し殺して、私はゆっくり目をつむった。
それから何時間経ったんだろう。
部屋のチャイムが鳴って起きる。
私の部屋に誰か訪ねて来た?
そんな事ある?
何も頼んだ記憶はない。
もしかして、おばさんかな。
そう思って立ち上がる。
部屋のドアを開けて驚いた。
だって、幼馴染の3人が立っていたから。
「は……?なんで……」
「許可は貰った」
「許可?」
「俺達は今日からお前とここに住むから」
櫂の言葉の意味が理解できない。
一緒に住む?
皆で?
私は、皆から離れるために一人になる事を選んだのに……。
「そ、そんなの……っ」
「親にも、叶絵のおばさんにも許可もらった。ここに住むことを管理人さんにも許可してもらった。だから、叶絵が何て言っても俺達はここに住むから」
「どうして……っ」
「言っただろ?『俺達は絶対に叶絵を一人にしない』って」
泣きそうな私を抱き締める櫂。
嬉しいやら、戸惑いやら、感情がぐちゃぐちゃで。
玄関で私は座り込んで泣いてしまった。
しばらく櫂の腕に甘えてそのままでいて、私は3人を部屋の中に入れた。
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