オリエンテーション

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マンションに帰ってご飯を作る。 莉乃は私の隣でジャガイモと悪戦苦闘をしていた。 「なんで叶絵ってそんなに器用なの……?」 「莉乃が不器用なだけでしょ」 「料理なんてしたことなかったもん」 「まぁ、実家にいたらしないだろうけど。私は元々家から出て行くつもりだったし、頑張って勉強したから」 「叶絵は凄いな……」 莉乃がため息をついた。 そして、ピーラーだというのに皮むきに見事に失敗しているジャガイモを見て私は頭を抱えた。 「莉乃、もういいよ。私一人で作るから。莉乃も郁人と櫂と一緒にテレビ見てなよ」 「そんなの叶絵に悪いもん」 「私はいいから。料理嫌いじゃないし、むしろ苦手なのに私の手伝いしてくれてありがとう」 「叶絵……」 莉乃は不満そうにしながら、それでも小さく頷いてキッチンから前のソファーに移動した。 ポテトサラダを作っていると、さっきまで寝ていた櫂が私に近づいてきた。 「どうしたの?櫂」 「莉乃が役立たずだったから、俺が手伝う」 「いいよ、別に」 「俺が手伝いたい」 櫂は有無を言わさず私の手からマッシャーを奪った。 櫂と二人で料理するって考えるだけでドキドキするから『いい』って言ったのに……。 「……ありがとう」 お礼を言って私はとんかつ用のお肉を冷蔵庫から取り出した。 しばらく二人で黙々と作業をする。 櫂は慣れた手つきであれこれとしてしまっていた。 とんかつを揚げるときも『油跳ねて危ないから』って言って自然に場所移動させられたし。 王子様すぎるよ……。 「なんで櫂、そんなに料理上手なの?」 「俺の親が共働きなの忘れた?」 「あー……そうだっけ」 「叶絵が一人暮らししてるから俺も一緒に住むって親に言った時、最初は反対っていうか、『叶絵の迷惑にならないか』って言われたんだ。でもそれと同時に、『櫂が寂しくないなら別にいいよ』とも言ってくれた。別に俺、寂しかったわけじゃなかったんだけど、二人とも気にしてたんだなって」 「そっか……」 「俺が飯作って二人の分置いてるの見て、何度も心の中で謝ったって言われた。そんなの別に気にしたことなかったし、俺は二人に感謝してるからそうしてるだけだったし」 「本当に寂しくなかった?」 「全然。だって、叶絵達が一緒にいてくれただろ」 そう言われて、なんだか私が泣きそうになった。 ここに来て、櫂は更に寂しくなくなったんだ。 私が拒絶して、迷惑かけたくないからって距離を置こうとしてる事に気づいていても、櫂は絶対にそれを許してくれない。 だって櫂は知ってるから。 もし櫂が同じことをしようとするなら、私達は絶対にそれを許さないって。 「お前が言ったんだからな。『櫂が寂しいなんて思う暇ないくらい一緒にいる』って。ちゃんと責任取ってくださいね、叶絵ちゃん」 櫂に真っ直ぐ見つめられて、私は少し笑ってしまった。 ・
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