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ちょっと早いけどお弁当作ろうかな。
こうしてても暇だし。
立ち上がってキッチンへ向かう。
フライパンとかを出していると、櫂が部屋から出てきた。
「あれ、叶絵早くない?」
「あ、櫂。ちょっと目が冴えて。暇だからさっさとお弁当作ろうとしてるの。うるさかった?」
「別に。俺も目が覚めたから起きてきただけ。俺も手伝う」
「いいよ。櫂はゆっくりしてて」
「どうせ暇だから」
櫂は私の隣に来ると手を洗った。
こうして二人でキッチンにいると、何だか結婚したみたい。
とか、ちょっと幸せな妄想をしたり。
「俺、こうやって弁当持って行くじゃん?」
「うん」
「友達がさ、珍しいって言ってくるんだ。俺が弁当持ってくるのが意外なんだって。失礼だと思わない?」
「まぁ、櫂って無気力に見えるから意外かも」
「は?」
「だって面倒ごと嫌いじゃん。そんな櫂がお弁当なんて持ってきたらビックリして当然だと思う。ギリギリまで寝てそうって思われてる可能性大」
「確かに、ずっと寝ていられたら楽だろうなって思ったことはある」
「購買で買ってきたり、もしくはコンビニの袋ぶら下げてそうだもんね」
「俺はそれでもいいんだけど、叶絵の作る弁当食べたいから。これからも頑張って起きるよ」
そう言われてドキッとした。
私の作るお弁当のために起きてくれるんだ。
……これからも食べてくれるんだ。
嬉しくて胸の奥がギュっとなる。
櫂と何気ない会話をしながら作業をしていると、不意に櫂に腕を引かれた。
驚いて櫂を見ると、急に玉子焼きを口の中に入れられた。
「!?」
「旨い?」
凄く美味しいけど、正直それどころじゃない。
凄く近くに綺麗な櫂の顔があって、それで微笑まれてるなんて。
しばらく固まってからハッとして私は頷いた。
櫂は満足すると私を離して玉子焼きをお弁当箱に詰めた。
なんでこんな事平気でするの?
諦めないといけないのに、どんどん諦められなくなる。
こんなの櫂が悪い。
『好き』って伝えたくなってしまう。
頭の中に親戚たちの言葉が浮かんで一瞬冷静になる。
ダメだ。
私は、奪う事しか出来ないんだから。
この手は、誰も幸せには出来ないようになってるんだから。
そう考えて私は唇を噛みしめた。
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