放課後

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放課後。 なんとなく皆と一緒に居たくなくて逃げるように教室を出た。 追い掛けられたくなくて自然と図書室に入る。 この学校の図書室には人はあまり来ない。 頭の悪い人が好んで来るような場所じゃない。 でも私は本に囲まれていると落ち着くのだ。 祖父の書庫でいつも親戚達から隠れていたから。 本は私を裏切らない。 本の中の世界はとても明るくて、楽しくて、私を違う世界へ連れて行ってくれる。 大好きな場所。 窓際の席に座ると、私の前に誰かが座った。 「何してるの?」 そう言ったのは永草くんだった。 「永草くん……」 「逃げて来たの?」 全部分かってるみたいな言い方をされて黙ってしまう。 それから答えずに窓の外を見続けた。 「叶絵ちゃんは、なんで幼馴染から逃げるの?」 「別に、理由なんてない」 「嫌いってわけじゃないんだよね」 「嫌いじゃないよ。むしろ好き」 「それなのに逃げるんだ。変な関係だね」 「……そうかもね」 そう言ってため息をつく。 永草くんはテーブルに五線譜を広げた。 曲を作っているんだろうか。 しばらく二人とも話さずその場にいるだけの時間が流れる。 スマホに莉乃達のメッセージがきているが全て無視。 私は今一人でいたいから。 「……永草くん」 声をかけると永草くんは私を見ずに返事をした。 「ん?」 「どうして皆、私を放っておいてくれないのかな」 私の質問に永草くんはしばらく考えて、それから答えを口にした。 「それってさ、皆が叶絵ちゃんを好きだから放っておけないんじゃないかな」 「私を好き?」 「うん。嫌いな人を心配したりしないでしょ?叶絵ちゃんが好きだから助けたくて、心配で、放っておけないんだと思うよ」 永草くんを見ると永草くんは五線譜に音符を書きながら答えていた。 「私は好かれるような人間じゃない」 「それは叶絵ちゃんが決める事じゃないよ。俺は嫌いな人と友達になったりしないし、こうやって一緒にいたりしない。周りを避けて、周りが『もういい』って叶絵ちゃんに興味を失くす。そんな事、多分これから先起こらないと思う」 「どうして言い切れるの?」 「だって叶絵ちゃんはずっとそうやって幼馴染から逃げて来たんでしょ?それなのに幼馴染は叶絵ちゃんをずっと心配してる。これから先、何年、何十年経っても叶絵ちゃんの幼馴染は叶絵ちゃんを放ってはおかないよ」 その言葉は何故かスッと心の中に入ってきた。 その通りかもしれない。 私がいくら避けても莉乃も、郁人も、櫂も、絶対に私から離れない。 私は皆を不幸にする。 もう、お父さんの時のような気持になるのは嫌なのに。 放っておいてくれれば、ずっと楽なのに。 私はギュッと唇を噛みしめて永草くんから目を逸らした。 ・
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