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「叶絵」
不意に櫂に名前を呼ばれる。
櫂を見るとジッと私を見ていた。
「なんかあった?」
「別に」
「そっか」
それ以上、櫂は何も言わなかった。
家に帰る帰り道も、櫂は郁人とずっと話してる。
後ろからそんな櫂を見て『好きだな』って再確認してしまう。
家に着いて部屋着に着替えると、莉乃がニコニコしながら近寄ってきた。
「叶絵」
「どうしたの?」
「新しいコロン、海梨ちゃんに貰ったんだ。超いい匂いなんだよ」
そう言って私の手を掴んで少し手首につける。
鼻までもっていくと確かにいい匂いがした。
女の子って感じの甘い香り。
「いい匂い……」
「でしょ?これで櫂もイチコロだよ!」
「は!?」
突然何を言い出すのか。
赤くなって慌てると莉乃がニヤニヤしてきた。
「叶絵探してる時ね、櫂ってば顔にあんまり出てなかったけど結構焦ってたよ。普段なら絶対に回避出来てるような事も回避出来てなかったし」
「回避?」
「壁にぶつかったり」
「え?」
「派手にころんだり」
「は?」
あの櫂が……?
信じられないけど、莉乃がこんなしょうもない嘘つくわけもないし。
「もう二人ともくっついちゃえ!」
「私と櫂はそういうのじゃないってば。櫂もちょっと調子悪かっただけでしょ?大げさに言わないの」
「大げさじゃないって。いくら幼馴染でも、私が同じように失踪しても櫂は全然動じないよ」
「心配はするでしょ」
「櫂が私のー?絶対ありえない」
……この二人、教室で上手くやってるのか?
凄く心配になってきたが、私にどうこう出来るようなものでもない。
私は息をついた。
今日の夕飯は郁人と莉乃が作る事になった。
私と櫂は二人でテレビを見る。
好きな人が隣にいて、緊張しないほど枯れてはいない。
櫂って何をしててもイケメンっていうか、様になるっていうか……。
これは私が櫂を好きだからだろうか?
それとも櫂が馬鹿みたいに綺麗な顔してるイケメンだからだろうか?
どちらにせよ、緊張して口から心臓飛び出そうだから早くご飯作って。
「あ、叶絵」
「え!?」
「何?そんな驚かなくても」
「ご、ごめん……」
「変なの。まぁいいけど。それより明日の放課後、予定空けといて」
「なんで?」
「莉乃と郁人には内緒で、水族館行こう」
小さな声で私にそう言ってくる櫂。
驚くと櫂は口に人差し指をあてていた。
なんでそんな優しい顔で微笑むの?
私が櫂を好きってバレてる?
固まって動けずにいると櫂は私の頭をクシャクシャに撫でた。
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