30人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「てかさ、叶絵」
「何?」
「郁人くん、何回か告白されてるの知ってる?」
そう聞かれて固まる。
それは初耳だ。
そんなこと、莉乃に知れたら大発狂間違いなしなんだけど。
「その様子じゃ知らないんだ。でも誰とも付き合わないんだって。『好きな人いるの?』って聞いてもはぐらかされるって。叶絵なら何か知らないかなって思って」
「それを聞いて波音はどうするの?」
「別に?郁人くんと友達だし、ちょっと興味あるだけ」
波音の様子から本当に興味本位なんだろうなと分かる。
私は少し考えてからため息をついた。
「私は知らない」
本当は知ってるけど。
だって郁人は莉乃が好きなんだから。
でも郁人がはぐらかしてるって事は莉乃に危害が及ぶことを恐れているから。
郁人は優しいから。
「えー?ほんとー?」
「ほんとだって。そもそも、幼馴染なだけで郁人の事を全て知ってるわけじゃないから」
「仲良しだし、知ってると思ってたー」
「まさか。家族とか兄弟ならまだしも、単なる幼馴染に全てさらけだせるわけないでしょ」
そう言いながら私は郁人をちらっと見た。
確かに、今だってクラスの子に結構見られてる。
昔からよく告白されてたし、見た目は絵本の中の王子様みたいだからな。
性格は温厚、いつもニコニコして女の子も男の子も助けて。
郁人に惚れない女子って存在するんだろうかって考えて、『自分だ』って毎回思ってしまう。
「梅雨祭りとか郁人くん引っ張りだこなんじゃない?」
「どうして?」
「だって他校からも人来るし、通学中だって郁人くんの事見てる人はいるわけでしょ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「むしろ、叶絵だって呼び出されるかもしれないよ?自覚ないけど美人なんだし」
「えー?それは鬱陶しいから嫌だな」
「鬱陶しいとか言わないの!」
波音が頬を膨らませて怒る。
私は困ったように笑った。
・
最初のコメントを投稿しよう!