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土砂降りの雨の中私はただひたすらに歩いていた。
周りの人が私を見て不思議そうにしている事なんて分かってる。
それがとても惨めで悲しいものでも、今の私にはどうでもよかった。
そんな時だ。
「傘、忘れたの?」
突然雨がやんだ。
振り返れば私に傘をさしてくれている永草くんと目が合う。
その隣には今にも泣きそうな麻里奈がいた。
「叶絵ちゃん、どうしたの?」
麻里奈が心配そうに私に声をかけてくれる。
「麻里奈……永草くん……」
麻里奈が頑張って作った永草くんとの時間。
それを私が壊していいの?
そうは思うのに、私の足はピクリとも動かない。
「とりあえず、近くのカラオケにでも入ろっか」
永草くんに腕を引かれて歩き出す。
私は二人にカラオケの中へ押し込められた。
椅子に座ってぼんやりしていると麻里奈がハンカチで私の髪から垂れる雫を拭いてくれた。
「何があったの?」
「……別に、何もないよ」
「嘘。そんなわけない。叶絵ちゃん、凄く悲しそうな顔してるもん」
麻里奈が泣きそうな、怒った顔で私に言った。
永草くんはいつものように優しく微笑んでいる。
私はため息をついて俯いた。
「本当に何も無い。ただ傘を忘れて教室で雨宿りしてたら道宮さんと出会って、それで止みそうにないから先に帰ろうとしただけだよ。悲しそうに見えたのは……ちょっと嫌な事思い出しただけ」
道宮さんと櫂の事は言いたくなかった。
二人が仲良しなのは別にいい事。
私には関係ない事。
こんな小さな事で嫉妬して教室を飛び出したなんて二人には知られたくなかった。
「叶絵ちゃん」
永草くんが微笑みながら口を開いた。
「言いたくないなら無理やり聞いたりしない。でもね?俺も麻里奈ちゃんも、叶絵ちゃんの友達だからね」
「え……?」
「一人でどうしようもなくなったら、俺達に頼ってもいいんだよって事」
永草くんは不思議だ。
私の気持ちとか、私に何があったのか、全部分かってるみたい。
私は二人に笑いかけた。
「ありがと」
そう言っていると私のスマホが鳴った。
相手を見ると櫂だった。
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