相合傘

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一番会いたくて、そして会いたくない人。 櫂には櫂の友達がいて、生活があって、櫂の世界がある。 その世界を壊したくなくて私は櫂を引き離さなければいけない。 それなのに私はズルズルとここまできて。 櫂は絶対私のものにはならない。 それは嫌という程思い知らされたじゃないか。 たとえ櫂が本気で付き合っていなくても、櫂には彼女がいた。 私じゃない女の子が櫂の隣を歩いてた。 あの女の子達は櫂とキスして、櫂と抱き合って。 『羨ましい』 そんな感情、持ったらいけないんだって分かってるのに。 今だって、櫂と道宮さんが付き合ったらどうしようってそればっか。 私は小さく息をついて電話に出た。 「……もしもし」 『叶絵、どこ?』 「なんでそんな事聞くの?」 『道宮が叶絵が教室出て行ったって言ってたから。学校迎えに行ったのに居ないから捜してるんだけど』 「心配しないで。すぐ帰る」 『傘持ってないんだろ?とりあえず居場所教えて』 なんで『嬉しい』とか思ってるんだろう。 どうして好きが抑えられないんだろう。 私は麻里奈を見た。 麻里奈は私の手を握って笑顔で頷いた。 「……櫂、どこ?」 『は?俺?』 「うん」 『俺は学校の近くの河川敷だけど……』 「じゃあそこ行くから待ってて」 そう言って私は電話を切った。 「あ、叶絵ちゃん傘……」 「麻里奈が濡れるから大丈夫。櫂、近くに来てるみたいだから」 「でも……」 「本当に大丈夫。ありがとう」 カラオケ代をテーブルに置いて部屋を出る。 土砂降りの中、私は走って河川敷まで向かった。 河川敷に着いて櫂を見つけた瞬間、私は櫂に後ろから抱き着いた。 「叶絵……?」 「迎えに来てくれてありがとう」 「いや、それはいいけど……。めっちゃ濡れてるけど大丈夫?」 「平気」 「平気なわけないだろ」 櫂は私を振り返った。 私の腕を掴んで怒ったように見下ろしてくる。 「傘無いなら言えよ。なんで一人で勝手に解決して動こうとするわけ?」 「……うん、ごめん」 『迷惑かけたくないから』とか言ったら絶対に『そんなわけない』って言ってくれる。 その言葉が嬉しくて聞きたくなるけど、私は心配されるような人間じゃない。 分かってるからこそ聞いてはいけない。 「帰るぞ」 櫂に手を握られて一緒に歩き出す。 自然と相合傘をしている事に気がついたけど、私は何も言わずに櫂と一緒にマンションへ帰った。 .
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